2024年7月26日から開幕するパリオリンピックで注目される新種目【ブレイキン】。
このブレイキンで日本は、世界選手権のメダリストを複数輩出しているかなりの強豪国。
【Shigekix(シゲキックス)】の愛称で知られる半井重幸(なからいしげゆき)選手をはじめ、オリンピックでもメダルへの期待が高まっていますね!
しかし新種目ということですし、そもそも「ブレイキンって何?」という方も多いのではないかと思います。
「どんなことを競っているの?」「どのような試合形式なの?」「何が勝敗を分けるの?」・・・これらを知らずにパリオリンピックの【ブレイキン】は楽しめませんね。
そこで【ブレイキン】は素人ですが、他のアクロバットパフォーマンスに長年関わり審判も務めてきた管理人が、【ブレイキン】の試合形式やルールを徹底調査しました!
初めて観戦する皆さんにもわかりやすいよう、表や図解で整理整頓してお伝えします!
- 日本選手のメダルが期待される競技「ブレイキン」とは?「ブレイクダンス」とのちがいは?
- ブレイキン競技の起源と歴史
- ブレイキン競技の特徴とは?・・・どんな技が披露されるのか、ざっくりと一覧表にしてみました!
- ブレイキン競技の試合進行は?
- ブレイキンのルールの前に①:【採点規則】と【競技規則】とは
- ブレイキンのルールの前に②:【絶対評価】と【相対評価】とは
- 日本国内では【絶対評価】を導入していましたが・・・
- ブレイキンの国際ルール「レベルA」の【採点規則】で評価される観点は?
- ブレイキンの国際ルール【採点規則】で減点されることは?
- ブレイキンではどうやって演技の比較を記録していくのか?
- 最新ルール【トリビウム・バリュー・システム】の採点方法とは?
- 【考察】なぜブレイキンの採点方式は【相対評価】になっているのか?
- 活躍が期待される日本代表選手は?
- パリオリンピック ブレイキンの競技日程とTV放送予定
日本選手のメダルが期待される競技「ブレイキン」とは?「ブレイクダンス」とのちがいは?
そもそも「ブレイキン」とはどんな競技なのでしょうか?
「あれ?ダンスじゃなかった?」「ブレイクダンスとはちがうの?」・・・などという疑問を抱いた方も多いかと思います。
まずはその「名称」ですが、正式には【ブレイキン(Breaking)】であって、詳細を知らない外部の人が呼んだのが【ブレイクダンス(Break Dance)】という俗称だったということです。
日本ではむしろこの【ブレイクダンス(Break Dance)】という呼称の方が一般的ですし、JDSF(日本ダンス連盟)の中ではその認知度に合わせて「ブレイクダンス本部」という名称を使っています。
【ブレイキン(Breaking)】はストリートダンスのひとつのジャンルなので、先にちょっとだけストリートダンスについて触れておきましょう。
ストリートダンスはアメリカの路上で生まれたカジュアルなダンスで、おもに黒人がけん引した音楽【ソウル・ミュージック】を原点にして、音楽の変化とともにさまざまな形に発展してきました。
その動きの特徴や、発祥した地域・年代によってさまざまな種類がありますが、【ロック(Lock)】【ポップ(Pop)】【ハウス(House)】【ヒップホップ(Hip-Hop)】などがよく知られているところです。
【ブレイキン(Breaking)】はその中でも立ち姿勢がきわめて少なく、ひときわアクロバティックで人目をひくダンスです。
ブレイキンを行う人を【ブレイカー】と呼び、さらに男性を【B-Boy】、女性を【B-Girl】と呼びます。
またブレイキンを行うことを「ブレイクする」と表現したりもします。
このようにストリートダンスのひとつのジャンルである【ブレイキン(Breaking)】を、世界共通の評価基準で競い合えるようにしたものが、競技としての【ブレイキン(Breaking)】ということになります。
ブレイキン競技の起源と歴史
ブレイキンは1970年代にアメリカはニューヨークのブロンクスで、アフリカ系やヒスパニック系の人たちの間で生み出されたストリートダンスです。
もともとギャングたちの抗争の多い地域だったのですが、対立するグループ同士が暴力で血を流すよりも、ダンスパフォーマンスで決着をつけようという意図でブレイキンは始められたんですね。
ブレイキンは始まった当初ストリートを中心に行われていましたが、クラブなどでDJが2枚のレコードディスクを使ったり、スクラッチ(レコードディスクの回転に手動で変化を加える操作)を入れたりすることで間奏部分を長くするテクニックが普及しました。
これらのテクニックによってブレイクは人々が集う場でいっそう行いやすくなり、その結果ファッション・音楽・ダンスなどの【ヒップホップカルチャー】という大きな文化を形成することになります。
このブレイキンが世界に広く知られることになったきっかけは、1983年に公開されたアメリカのダンス映画『フラッシュダンス』です。
1970年代にもダンス映画は何本も作られており、中でもジョン・トラボルタが主演した『サタデーナイト・フィーバー』や『ステイン・アライヴ』などの映画の大ヒットもあって、世界的にはディスコ・ダンスが大きな人気を博していましたが、これらの映画の中にはまだブレイキンはその気配も見えませんでした。
この流れに続いた83年の『フラッシュダンス』は、ヒロイン役のジェニファー・ビールズの魅力も相まって、かなり大きなヒットになったと記憶しています。
クライマックスのダンスオーディションのシーンの動画ですが、3’52”のところから【ウィンドミルからのバックスピン】が披露されます・・・これが世界に大きな衝撃をもたらしたんですね。
同じく1983年には故・マイケルジャクソンが『ビリー・ジーン』をMotown 25th Anniversaryのステージで歌った際に【ムーンウォーク(バックスライド)】を披露したこともあり、この技術もまたたくまに世界に広がりました(現在ではこの技はポッピンの技術に分類されているようですが、当時はまだストリートダンスのジャンルの区分けも認知度は高くなく、ムーンウォークもブレイキンの技のひとつと認知されていたかもしれません)。
こちらは3’38”のところからです。
そしてこれらの映画やステージによって日本でもブレイキンが広く興味を集めたことは、この映画の翌年1984年にオンエアされた、ある企業CMによっても確認できます。
知る人ぞ知る【ダイワみなくるチェーン】のCMです(笑)。
このCMではポリマー加工されてピカピカのツルツルになった自動車のルーフで、男の子がバックスピンをキメるというド直球なCMなのですが、実質これが日本でのブレイキンに対する「認知の夜明け」だったのかもしれません。
こうして1980年代半ばに大きな盛り上がりを見せたブレイキンですが、それはあくまでダンスやエンタメの「シーンのひとつ」としてであって、その後はいったん沈静化してしまいます。
しかしそこから数年後、ブレイキンは【競技の形式】を伴って、ひとつの大きなカルチャーとして再興するんです!
1980年代に活躍したブレイカーたちが力を結集し、1990年に【Battle of the Year(BOTY)】の創設に成功しました。
これは正式に審査される大会を大規模に確立した最初のブレイキン専用イベントで、すべての大陸で予選イベントが開催され、観客動員数では伝統的に世界最大のBreakingイベントとして今日まで続いています。
その後【Freestyle Session】や【Red Bull BC One Championships】など、国際的な大きな大会が次々と設立され、ブレイキンはヒップホップカルチャーの雰囲気を色濃く残しながらも、世界中の若者が同じ土俵で技を競い合うことのできる競技ダンスのひとつとして定着し、現在に至ります。
ブレイキン競技の特徴とは?・・・どんな技が披露されるのか、ざっくりと一覧表にしてみました!
ブレイキンが他のダンス(バレエ・モダン・ジャズetc.)と大きく異なるのは、その発祥がエンターテイメントではなく「バトル」「技量くらべ」にあることでしょう。
ですのでそこには対戦相手を上回るために、相手や観客が「おっ!?」と思うようなアクロバティックな動きやポーズがたくさんあります。
また他のジャンルのダンスにくらべて圧倒的に「立ち姿勢以外で行う動き」が多いのも大きな特徴で、日常では決して目にすることのない姿勢や動きが膨大にあるんですが、初めてブレイキンを観る人にとっては何がなんだかわかりませんよね。
そこで、これらの動きの「分類」とダンスの「展開」を、代表的な技や動きをいくつか紹介しながらさらっと表にしてみました。
ブレイキンで行われる動きは【トップロック】【フットワーク】【パワームーブ】【フリーズ】の4つに分類されます。
これらがダンスの中で、おおまかには「起・承・転・結」のような役割に感じられることも多いので、順を追って一緒に見ていきましょう!
【トップロック】
立ち姿勢で行われるダンスの導入部分、起承転結の「起」に相当する部分で、他のカジュアルなダンスと共通するところも多い様々なステップを行うパートです。
このステップに高いリズム感やオリジナリティが感じられると、審判や観客が温まりやすいですね!
サルサステップ (サイドステップ) | インディアンステップ (クロスオーバー) | 2ステップ |
クロスステップ (ポップコン) | ブロンクスステップ (マーチ) | スキップ |
これらの他にも、バックステップ・キックアウト・チャーリーなど、さまざまなステップがあります。
【フットワーク】
フットワークは多くの場合、床に手などをついて低い姿勢で体を支えながら、足さばきを見せるパートです。
トップロックが他のダンスと姿勢やテクニックをある程度共有しているのに対して、このフットワークはブレイキン独特の姿勢やテクニックで行われます。
観客や審判がダンスの展開に対して「おっ、何かスペシャルな時間が始まったな!」と身を乗り出して観始める「承」の瞬間ですね!
1歩 | 6歩 | CC(シーシー) |
ストマック | プレッツェル | フロアトラックス |
これらの他にも、2歩・3歩・4歩・5歩・サルフット・オーバーラップ・ズールスピン・ピーターパン・バックロック・半ジロー・フック・フロントキックなど、多彩なフットワークがあります。
【パワームーブ】
パワームーブはさらにアクロバティックな動きで、上半身をさまざまに使って支えながら、その多くは回転を伴います。
ほとんどはブレイキンの中で独自に生み出された技ですが、一部は体操競技から転移したものもあり、そのダイナミックな動きから、最大の見せ場となることも多いパートです。
まさに「別世界の動き」に変貌する「転」の瞬間ですね!
1900 | ウィンドミル | トーマス |
ヘッドスピン | スワイプス | ハンドスピン (グライド) |
これらの他にも、1990・ドリル・Aトラックス(ヘイロー)・チェアトラックス(チェアエアー)エルボーエアートラックス・ハンドスピン(エレベーター)・ベビーウィンドミル・Wダブリュー(両手スワイプス)・エッグロール・クリケット・ワンハンドクリケット・ゴリラ・タートル・UFOなど、いろいろな技があります。
【フリーズ】
フットワークやパワームーブが音楽に合わせて行われているところから、主に上半身で体を支えて数秒間止まってポーズをとるパートです。
止まるポーズそのものが複雑なバランスを要するものなので、ダイナミックな「動」から複雑な「静」へと転換する、もっとも困難な瞬間と言えるでしょう。
ここで行われているポーズも、他のダンスやパフォーマンスではほとんど見ることができない「ブレイキン独自のポーズ」であり、ムーブの一連の流れを文章に例えると【句読点(「、」や「。」)】の役割が感じられ、「完了(結)」の印象を与えてくれます。
左:ジョーダン 右:ダブルジョーダン | 上:エアベイビー 下:ワンハンドエアベイビー | 左:アローバック 右:ハローバック |
上:チェアー 下:エアチェアー | 左:肩フリーズ 右:肘倒立 | 左:フラッグ 右:ダブルシフト |
この他にもさまざまな姿勢のバリエーションがありますが、どれも単体でやってもバランスが難しそうな姿勢ですね!
まとめますと、演技構成の基本的なパターンとしては【トップロック】→【フットワーク】→【パワームーブ】→【フリーズ】という具合に考えておいて、私たち初心者が観戦するときには、この4部分に区切って観るとわかりやすそうですね!
ブレイキン競技の試合進行は?
ブレイキンの試合形式は、基本的に「バトル(対戦形式)」になります。
本来であれば「1対1」「2対2」さらに多人数の「クルー対クルー」など多くのバリエーションがありますが、2024年のパリオリンピックで行われるのは【1対1(One on One)】の対戦形式のみです。
会場には対戦する【ブレイカー(選手)2名】のほかに、音楽をコントロールする【DJ】、試合の進行を務める【MC】、そして奇数名の【審判員】がいます。
試合のグレードによって審判員の人数が定められていますが、今回のオリンピックで審判員は5か国から1名ずつの5名で行われるようです。
参加するブレイカーは【B-Boy(男子)16名】、【B-Girl(女子)16名】となっています。
対戦する2人のブレイカーには「赤サイド」「青サイド」という区別が割り当てられており、ボクシングの「赤コーナー」「青コーナー」が連想されますね。
バトルには「先攻」と「後攻」があり、先攻→後攻で1ラウンドのセットになりますが、これを今回のオリンピックでは3ラウンド行うようです。
各ラウンドでは1名に最大1分の演技時間が許容されており、この範囲でさまざまなトリック(技)を含んだムーブ(ダンス)を交互に行います。
使用する楽曲はDJが決め、スクラッチなどのアレンジも入ることがありますから、ブレイカーはそのときの曲の場面に合わせて即興で踊ることが求められます。
後ほど説明しますが、同じ技の繰り返しや相手をマネするのは減点対象になりますから、その場で相手とは異なる動きを組み立てて、オリジナリティあるダンスを披露しなければなりません。
つまりダンススキルのバラエティーの豊富さと、それらを用いた「即応力」が求められているというわけです。
バトルではこの点がフィギュアスケートや女子体操競技など、選手が楽曲を準備して、予定どおりの演技を行う競技とは大きく異なる点ですね!
※この他に「ショーケース」と呼ばれる、チームが事前に楽曲と内容を決めて演技を披露する形式がありますが、ここでは割愛します。
審判員は手元のタブレットに表示されている採点項目について「赤サイドと青サイドのどちらがすぐれているか」と相対的に比較し、優劣をつけていきます。・・・これについては後ほどもうちょっと踏み込んで説明しますね。
ラウンドがすべて終了すると、審判はタブレットのデータを送信し、MCがバトルの終了を宣言します。
2人のブレイカーが握手することも競技規則にはきちんと定められており、スクリーンにはバトルの結果が表示されて終了となります。
今回のオリンピックでは【ラウンドロビン(総当たりリーグ戦)】と【ノックアウト(トーナメント方式)」の2つのフェーズで試合が展開され、B-BoyとB-Girlのそれぞれの順位が決まっていきます。
予選リーグにあたる【ラウンドロビン】では、各16名のブレイカーが4人ずつ4つのグループに分かれ、総当たりで1対1のバトルを行います。
そしてこのラウンドロビンで各グループ上位となった2名が【ベスト8】として、次のフェーズである決勝トーナメント【ノックアウト】に進み、最終的な順位・そしてメダリストが決定されます。
ブレイキンのルールの前に①:【採点規則】と【競技規則】とは
ブレイキンのルールをご紹介する前に、採点競技の中にある【採点規則】と【競技規則】のちがいや、【絶対評価】と【相対評価】のちがいを「前置き」としてちょっと触れておきますね。
採点スポーツのルールには、大きく分けて【採点規則】のようなものと【競技規則】のようなものがあります。
【採点規則】とは「個々のパフォーマンス(演技)」に対して審判員が得点を決定する上でのルールになります。
一方【競技規則】は、いくつもの演技や試合が行われる「競技全体」をコントロールするルールで、試合の形式や進行、予選や決勝などの試合ステージの位置づけ、あるいは勝敗の決着のつけ方(たとえば同点のときにどうするか?など)や選手・コーチ・審判員の資格と権利、服装や道具について・・・などなど多岐に渡ります。
この【採点規則】を知ることで、【ブレイキン】という競技が「何を『すごい!』と判断しているのか」、そして「どんなことを『すごくないww』と判断しているのか」が見えてきますよ!
ブレイキンのルールの前に②:【絶対評価】と【相対評価】とは
ダンスを含めた採点競技の評価方法ですが、現在では【絶対評価】が中心になってきています。
【絶対評価】の代表的な例は体操競技やフィギュアスケートで、個々の技がその「難しさ」によって分類され、その分類にしたがって【技の基礎点】が定められています。
そしてパフォーマンスで行われた技の基礎点や構成の要件に与えられた点数の合計が【パフォーマンス全体の基礎点】となり、そこから実際の演技で行われた出来栄えを、その不完全さに対して段階的に定められた減点(ときには加点)をその都度おこない、最終的な【得点】を算出する方法です。
どんなパフォーマンスにもまずはその難しさによってあらかじめ定められた基礎点という【絶対値】が与えられ、それをもとに評価していく方法なので【絶対評価】と呼ばれます。
では【相対評価】とは?
これに対して【相対評価】の採点方法とは、技の難しさや内容による【基礎点】、つまり【絶対値】を与えず、「AとBではどちらが優れていたか」とか、あるいは「AとBとCでは、どれが最も優れており、2番目がどれで3番目はどれか」などと評価していく方法です。
この例に挙げたA・BやCは選手なのですが、実際の評価ではいきなり「A選手とB選手とC選手のパフォーマンスのどれが1位・2位・3位なのか?」となることはまずありません。
現実にはパフォーマンスをあらかじめ分析された【観点】ごとに比較することになります。
それはたとえば、【技術面】【表現力】【独創性(オリジナリティ)】のような3つの観点だとします。これを、
【技術面】についてAとBでは、どちら優れているか(あるいはAとBとCでは、どれが1番目で2番目がどれで3番目は・・・)
【表現力】について・・・(以下同文)
【独創性】について・・・(以下同文)
・・・と各観点について審査し、これらをあらかじめ定められた方法でまとめて、最終的な【総合順位】を決定するような形になります。
ブレイキンの国際的な採点規則は、この【相対評価】の方になります。
日本国内では【絶対評価】を導入していましたが・・・
パリオリンピックでブレイキンが種目として採用されたことで、JDSF(日本ダンス連盟)のブレイクダンス本部は、国際ルールの要点を熟慮したうえで独自の【絶対評価ジャッジシステム】を作成し、2019年から国内大会で採用してきました。
これは一般に「内規(国内規定)」と呼ばれるもので、選手強化のために国際ルールよりも基準を厳しくしたり、独自の観点を加えることで、選手の演技内容や実施技術の向上を狙って行われるものです。
しかし開催年である2024年の選手選考のための試合からは、国際ルールに戻して選抜を行ったようです。
では次のコーナーで、実際のブレイキンの国際的な【採点規則】をざっと覗いてみましょう!
ブレイキンの国際ルール「レベルA」の【採点規則】で評価される観点は?
まずブレイキンの演技で比較される【観点】は、試合のレベルごとに異なります。
試合のレベルはAとBに分けられているんですが、そのレベルはA>Bとなっており、パリオリンピックの試合はレベルAで取り扱われます。
【レベルA】の採点は、従来ですと以下の5項目が比較の観点となっています。
観点 | 影響度 | チェックされる内容 |
①Technique(テクニック;技術性) | スコアの20% | 運動能力・ フォーム(ライン、アングル、シェイプ)・ ボディ・コントロール・ ダイナミクス・ 空間認識 などがチェックされる。 |
②Vocabulary(ボキャブラリー;多様性) | スコアの20% | ボキャブラリーでは動きが多様であることを評価し、動きや動きのパターンの繰り返しを最小限に抑えられているかなどがチェックされる。 |
③Execution(エクスキューション;完成度) | スコアの20% | 完全さ(スリップ、衝突、転倒が最小限または皆無であること)・一貫した流れ・構成・ストーリーテリング(物語性) などがチェックされる。 |
④Musicality(ミュージカリティ;音楽性) | スコアの20% | 音楽に存在するリズムやテクスチャーに素早く適応し、反応することができるかどうか、アクセントをとらえてパフォーマンスを際立たせる瞬間を予測することができるかどうかなどがチェックされる。 |
⑤Originality(オリジナリティ;独創性) | スコアの20% | 基本的な動きに独創的なバリエーションを加え、独自のムーブセットを披露しているかどうか、即興性・革新性・自発性・個性・レスポンス などがチェックされる。 |
ここまでが採点のうえで大きな観点となっている5項目になります。
ブレイキンの国際ルール【採点規則】で減点されることは?
もちろん減点される対象も定められており、代表的な減点としては以下の3項目が挙げられます。
減点項目 | 影響度 | 内容 |
①Crush(クラッシュ) | 調査中 | バランスを崩す、転倒するなどの技の失敗。 |
②Repeat(リピート) | 調査中 | 同じ技・同じ動作を繰り返すこと。 |
③Bite(バイト) | 調査中 | 相手の技・動作を真似ること。 |
これらは演技の「失敗」に相当する項目ですが、これ以外にも減点される(あるいはペナルティをもらう)項目があります。
それが「不品行」とか「素行不良」と訳される「Misbehavior」、つまりは「マナー違反」です。
ブレイカーには、自らが地域社会およびスポーツ全体を代表する存在であることへの自覚と、それにふさわしい態度が求められており、競技中に発生した地域社会にとってマイナスとなるようなジェスチャーや行為は、罰則の対象となります。
マナー違反は 1.軽度 2.中度 3.シビア の3段階に分類され、ボタンを押す回数によって減点の幅が決まったり、押した審判員が過半数であるかどうかなどによって失格処分への検討も行われます。
違反の程度 | 減点 | 内容の例 |
1.軽度 | 合計得点の3%減 | 偶発的、意図的でない、または攻撃的でない行為やジェスチャー。 たとえば対戦相手のラウンドが終了する前にラウンドを開始した場合や、 競技者が技の実行中に相手と偶発的に身体的接触をした場合など。 |
2.中度 | 合計得点の6%減 | 暴力的ではないが意図的な行為やジェスチャーで、特定の人物(または人々)を威嚇したり、品位を落とすような行為。 たとえば不利な判定が下された後、競技者がジャッジに対して失礼なジェスチャーをしたり、ラウンド中に対戦相手に対してみだらなジェスチャーをした場合など。 |
3.シビア | 合計得点の10%減 | あからさまに攻撃的、暴力的、または性的な意図的行為やジェスチャー。 たとえばラウンド中に相手を押した場合。空中技を妨害するために身体を使い、ラウンド中に相手を危険にさらした場合など。 ジャッジの過半数がその行為をシビアと判断した場合、違反した競技者またはクルーは、委員長の最終承認を待たずに、即座に失格となる。 |
ブレイキンではどうやって演技の比較を記録していくのか?
そしてブレイキンの審査でもっとも特徴的かつ革新的なのは、これらの採点を【ハンドヘルドインターフェイス】と呼ばれる専用のタブレットで入力していくというところでしょう!
タブレットの画面には先ほど紹介した【5つの項目】に対応した5つの独立したスライダーがあり、このスライダーを使って「この項目ではブレイカーAとブレイカーBのどちらがどれだけ優れていたか」「どちらが不完全であったか」をすみやかに入力することができます。
そして各5項目を総合した優劣が、最上部にあるスライダーに表示されます。
採点規則には、バトルにおける「ブレイカーのなすべきこと」と「審判のなすべきこと」が以下のように表現されており、相対評価のもつ意味を簡潔に説明しています。
「ブレイカーはポイントを積み重ねるのではなく、バトルが進むにつれて『パワーバランス』を変化させようとしている。」
「ジャッジはバトル期間中、このバランスの変化を徐々に追跡し、バトル終了時に最終的な評決を下す。」
このタブレットの画面は、まさに上記の「審判のなすべきこと」がそのままフォーマットされていますね。
さらには【マナー違反】に対する減点を入力する専用のボタン【Misbehavior】が画面の下両端に設置されています。
これを見ればブレイキンをけん引してきた方々が、いかにマナーを重視しているのかがわかりますね!
現在ではこの5項目の評価基準よりもさらに新しい【トリビウム・バリュー・システム】という評価基準がありますが、パリオリンピックで採用されるのは先ほどご紹介した【5項目の評価基準】なのか、それとも【トリビウム・バリュー・システム】なのか、どちらの評価基準なのかの詳細情報はまだつかめていません。
最新ルール【トリビウム・バリュー・システム】の採点方法とは?
ではこの【トリビウム・バリュー・システム】とはどのような採点方法なのでしょうか?
ラテン語である「トリビウム」という言葉はもともとは三叉路(3つの道路が交わる交差点)を意味していた言葉ですが、のちに修辞学など3つの学問を指す言葉として使われるようになりました。
基本的な考え方は、日本における「心・技・体」とよく似ているので、我々日本人にとっては理解しやすいかもしれません。
考え方としては、まずダンスの総体を以下の3つの面でとらえます。
(1)身体的品質(身体について)
(2)解釈的品質(魂のため)
(3)芸術的品質(心に対して)
この3つの面が交差するエリア(図の中心の白抜きの部分)には【真実(原文ではtruth)】という言葉があてはめられていますが、他にもっとよい適訳があるかもしれません。
この辺のとらえかたは普遍的であり、また哲学的でもある感じがしますね。
そしてこれら3つの面に対して、それぞれ2つのサブカテゴリーを設定し、その影響力を%で表示しています。
(1)身体的品質(身体について)
①テクニック 20.0%
②バラエティ 13.333%
(2)解釈的品質(魂のため)
③パフォーマンス 20.0%
④音楽性 13.333%
(3)芸術的品質(心に対して)
⑤創造性 20.0%
⑥パーソナリティ 13.333%
これら①~⑥のサブカテゴリーの合計が100%になっています。
そしてこれら①~⑥について「どちらのブレイカーが優勢か」と観察するうえで、明らかなプラスやマイナスをする観点も定められています。
⑦Execution(完成度;プラスとマイナス)
⑧Form(フォーム;プラスとマイナス)
⑨Confidence(確実性;プラスとマイナス)
⑩Spontaneity(自発性;プラスとマイナス)
⑪Repeat(繰り返し;マイナスのみ)
⑫Bite(相手のマネ;マイナスのみ)
⑬Crush(失敗;マイナスのみ)
⑭Misbeavior(マナー違反;マイナスのみ)
この⑦~⑬の観点へのプラス・マイナスの評価は、①~⑥のサブカテゴリーに対して複雑な影響を与えるようになっており、この評価システム全体を反映したインターフェイスの画面は、おおまかですが以下のようになっています。
たとえば⑦完成度と⑧フォームへの評価(+とー)は、①テクニック②バラエティーと③パフォーマンス④音楽性に影響を与えます。
同様に⑨確実性と⑩自発性への評価(+とー)は、③パフォーマンス④音楽性および⑤創造性⑥パーソナリティーに影響するようになっています。
このように、⑦~⑩の各々の観点がひとつのサブカテゴリーに影響する「1対1対応」になっているのではなく、ひとつの観点が①~⑥の中のいくつかのサブカテゴリーに影響するという、ちょっと複雑な関係性になっており、この①~⑥のサブカテゴリーのバランスの総和が総合的な結果として「選手名」の下にある赤と青のバランスバーに表示される、という仕組みのようです。
また⑪~⑭の減点の観点と影響するサブカテゴリー、その影響度については以下のような関係になっています。
減点ボタン | 影響するサブカテゴリー | ボタン1プッシュあたりの減点 |
⑪繰り返し(Repeat) | ②バラエティ、⑤創造性 | 1.66% |
⑫相手のマネ(Bite) | ②バラエティ、⑤創造性、⑥パーソナリティ | 2.34% |
⑬失敗(Crush) | ①~⑥すべて | 1プッシュ=スリップ;2.50% 素早い2プッシュ=クラッシュ;5.00% 素早い3プッシュ=ワイプアウト;消去 |
⑭マナー違反(Misbehavior) | ③パフォーマンス、⑤創造性、⑥パーソナリティ | 1プッシュ=軽度;2.66% 2プッシュ=中度;5.34% 3プッシュ=シビア;8.00% |
この減点の観点と影響を受けるサブカテゴリーの関係も1対1対応ではなく、複雑な関係性になっていますね。
以上のように、さまざまな観点へのプラス評価・減点は複雑な関係性をもって6つのサブカテゴリーへ影響しているので、そこから導かれる両者の優劣は、暗算でだいたいの得点がわかるようなものではないようですね!
【考察】なぜブレイキンの採点方式は【相対評価】になっているのか?
【相対評価と絶対評価】を解説したページで私は「採点競技の評価方法は現在では【絶対評価】が中心になってきています」と書きましたが、なぜブレイキンでは【相対評価】を採用しているのでしょうか?
・・・ここからは管理人の推測ですが、3つほどその理由を挙げてみました。
①即興の演技に対して【基礎点】を拾い出す【絶対評価】方式が困難
②各演技の絶対量の算出よりも出会った【ブレイカー同士の優劣】を明白にすることが優先
③即興のバトルで発生する【技の応酬】や【戦略】を重要な見どころととらえている
①についてですが、体操競技やフィギュアスケートのように、あらかじめ選手側が準備していた内容を予定通り披露していくような競技形式では、予想外の演技は稀にしか起こりません。
そのため予選でも決勝でも演技内容には大差がなく、演技で行われた技の難易度を膨大な技の中から拾い出して記録していくことも、それほど困難ではありませんから、【絶対評価】を採用しやすいでしょう。
しかしブレイキンのバトルにおいて、曲はDJがその場でコントロールし、それに合わせて「即興」でダンスが行われます。
パフォーマンス(演技)が予定通りに行われることはまずありませんから、毎回内容が異なる演技で行われた技の難易度を、膨大な技の中から拾い出して正確に記録していくこと自体がかなり難しいと思われます。
あのスピードで次から次へと入れ替わる技や動きの難易度を記録するためには【速記技術】が必要でしょうし、そのような確かな技術のある審判員を国際試合で各国が公平にそろえるのはかなり難しいことです。
おそらく毎回【ビデオ判定】が必要になり、審査も紛糾するのではないでしょうか?
・・・そう考えると、絶対評価でやっていた日本のジャッジの方々は、かなり大変だったであろうと推測します。
また②についてですが、ブレイキンの成り立ちの歴史を振り返ってみれば、ストリートで出会ったグループの抗争を【暴力】から【ダンスの技量比べ】に転換したのが始まりです。
見物人の立ち合いのもとで、何よりも出会った両者の「優劣」に決着がつくことが重要であり、そのパフォーマンスが絶対量的にどれほどの大きさだったのか、という「歴代の記録」のような面は、両者の優劣よりも大きな問題とはとらえられていないのかもしれません。
最後に③についてですが、即興の演技がいくつかのラウンドにわたって行われるため、そこには【技の応酬】が起こります。
相手との違いを際立たせることと、相手よりも優勢であることを明らかに示すためには、相手の見せた技に対して自分のもつ技のバラエティーから「印象を変えるための最適解」をチョイスする【戦術】が瞬時に必要になってきます。
さらには「自分が今この技を見せておけば、次に相手はこんな技を出してくるだろう。そこにあの技をぶつければ、最終的な印象は大きくひっくり返せる」などという【戦略】も存在しえます。
他のダンスにはあまりない「バトル」という伝統的な形式が、【技の応酬】や【戦術】【戦略】という「見どころ」を生み出しており、これを重視しているのがブレイキンなのかもしれません。
個技の価値点や演技全体の価値点という【絶対値】を重視するならば、そもそもラウンドを繰り返す必要もありません。
それよりも各ラウンド各ムーブでの「動的な攻防」に注目するために、ブレイキンはあえて【相対評価】を採用しているのかもしれませんね!
ここまでブレイキンの成り立ち・見どころ・ルールなどを説明してきましたが、いかがでしたでしょうか?
では次に、このようなブレイキンの競技に出場する日本人選手をチラッとご紹介しましょう!
活躍が期待される日本代表選手は?
<2024年パリオリンピック ブレイキン競技の日本代表4選手>
本名 | ニックネーム | 生年月日 | 出身地 | 出身校 | 戦績 |
湯浅 亜実 (ゆあさ あみ) | AMI (アミ) | 1998年12月11日 | 埼玉県川口市 | 駒澤大学 | 世界選手権 2019年金メダル 2021年銀メダル 2022年金メダル |
福島 あゆみ (ふくしま あゆみ) | AYUMI (アユミ) | 1983年6月22日 | 京都府京都市 | 平安女学院高校 | 世界選手権 2021年金メダル 2022年銅メダル 2023年銀メダル |
半井 重幸 (なからい しげゆき) | Shigekix (シゲキックス) | 2002年3月11日 | 大阪府大阪市 | 大阪学芸高校 | 世界選手権 2022年銀メダル/2023年銅メダル 2023年アジア大会金メダル |
大能 寛飛 (おおの ひろと) | Hiro10 (ヒロト) | 2004年12年3日 | 石川県金沢市 | 北陸学園高校 | 2024年全日本選手権2位 |
各ブレイカーの動画をひとつずつピックアップしてみましたので、これまでに触れてきた技の種類や構成・ルールなどを思い出しながら見てみましょう。
まずはB-Girl AMIのバトルからどうぞ!
2023年9月に中国の杭州で行われたアジア大会からです。
惜しくも中国の新鋭に敗れましたが、滑るようなフットワークがとても魅力的です!
同じく杭州アジア大会でのB-Girl AYUMIが3位を決めたバトルです。
個人的にはトップロックの動きがとても軽やかで、技云々の以前にキレイだと感じました!
B-boy Shigekixのバトルですが、やはり筋スピードがオリンピアンですね!
さまざまなムーブからのワンハンドのフリーズが、どれも想像以上のメリハリで驚きました!
B-boy Hiro10はInstagramから。
18歳の誕生日にバトル会場で見せたエアートラックス18回連続(笑)からの1990ですが、普通じゃないことが定番になっていそうですね!
いかがでしたでしょうか?
初めて観る我々には各ブレイカーのボキャブラリー(技や動きのバラエティー)まではとうてい追いかけられませんので、観客が「おぉっ!?」と言った瞬間を何度かプレイバックして見てみましょう。
それぞれの長所やアピールポイントを憶えておくだけでも、オリンピックの観戦がぐんと面白くなるはずです!
「そうそう!これこれ!」「これがすごいんだよね!」とうなづきながら「にわかファン」になる自分を楽しみましょう!(笑)
パリオリンピック ブレイキンの競技日程とTV放送予定
パリオリンピックのブレイキン競技は、現地時間で2024年8月9日にB-Girlの全日程が、8月10日にはB-boyの全日程が行われます。
パリと日本の時差は7時間パリの方が遅いですから、日本で夜中の12時はパリで夕方の5時ということになりますね。
NHKではBS8Kを中心に生中継で放送を行うようです。
●8月9日(金) NHKBS8K 午後10:50〜 ブレイキン 女子 予選リーグ【生中継】
●8月10日(土) NHKBS8K 午前2:50〜 ブレイキン 女子・準々決勝・準決勝・3位決定戦・決勝【生中継】
●8月10日(土) NHKBSP4K 午後10:50〜 ブレイキン 男子 予選リーグ【生中継】
●8月10日(土) NHKBS8K 午後10:50〜 ブレイキン 男子 予選リーグ【生中継】
●8月11日(日) NHKBS8K 午前2:50〜 ブレイキン 男子・準々決勝・準決勝・3位決定戦・決勝【生中継】
なお残念なことにブレイキンは、2028年のロサンゼルスオリンピックでは行われないことが決定しているようですので、今回の開催をお見逃しなく!
寝不足にはじゅうぶん注意をして(笑)、パリオリンピックとブレイキンを楽しみましょうね!
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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