2023年、イギリスで行われた世界最大級のオーディション番組『Britain’s Got Talent series16』において、日本人芸人「とにかく明るい安村」が出場、決勝まで残る大活躍をして話題をさらいました。
「とにかく明るい安村(以下「安村」、敬称略)」とはどんな芸人なのか?
ゴットタレント出場までにどんな道のりを歩んできたのか?
BGTでの活躍を審査員や観客はどう見たのか?
そしてBGT出場後の彼はどんな仕事をしているのか?
アクロバットパフォーマンスに長年関わり、若い頃からダンスも歌も大好きで、現在はAGTやBGTにハマっている管理人が「とにかく明るい安村」のルーツと魅力を徹底的に調査し、
【Before】(BGTの前まで)
【During】(BGTの最中)
【After】(BGTの後)
・・・と、BGTを起点にした3つの視点に整理整頓してお伝えします!
- 【Before】「とにかく明るい安村」のプロフィールとネタの確立まで
- 「安心してください、穿いてますよ」のブレイクと突如の終焉
- ブリテンズ・ゴットタレント出場のきっかけは?
- 【During】1次予選の演技に、会場と審査員の反応は?
- 1次予選への審査員のコメントとジャッジは?
- 準決勝の演技に審査員の反応は?そして結果は?
- BGTでは日本人初の快挙!Tonikakuの決勝進出はワイルドカードだったが、英国内では批判も・・・
- とにかく明るい安村の決勝ステージのネタは?・・・そして結果は?
- 【海外の反応】Tonikaku のパフォーマンスに海外のネット民の反応は?
- 【考察】BGTは安村の何に安心していたのだろうか?
- 【After】駐日英国大使館に招待され、ネタ披露!
- ロンドンの「ジャパン祭り」でも安村がステージに!
- フランスのゴットタレントにもTonikakuが登場!
- 【衝撃】BGTの決勝ネタ、実は現地スタッフの作だった!
- 【終わりに】裸芸は神事にさかのぼる日本古来の伝統芸
【Before】「とにかく明るい安村」のプロフィールとネタの確立まで
「とにかく明るい安村」の本名は安村 昇剛(しょうごう)で、1982年3月15日、北海道旭川市に生まれました。
血液型はB型で、身長は177cm体重は86kgとありますが、一時期は痩せていたこともありましたね。
中学生のときに文化祭で友達に誘われ、お笑いネタを披露したことがきっかけで芸人の道を目指した彼は、私立旭川実業高等学校卒業後は就職をせずに上京したようです。
安村は1982年に設立したNSC(吉本総合芸能学院)出身の「吉本芸人」です。
1995年に開校したNSC東京校の6期(2000年)出身で、幼馴染の栗山直人と同年から『アームストロング』というコンビを結成して活動しましたが、2014年に解散しています。
ピン芸人となってから一時期は廃業して北海道に帰ろうかと思ったこともあったようですが、現在の奥様に未練心を見抜かれて止められたとのこと。
ピンになった当初はさまざまな漫談をやっていましたが、渡辺麻友の写真集『まゆゆ』の表紙のポーズが全裸に見えることにヒントを得て現在のネタの原型ができ、そこから周囲の反応を聞きながら改良を重ねて現在のスタイルがかたまってきたようです。
2015年1月放送のTV番組『さんまのまんま』では「今田耕司おすすめ芸人」のコーナーで、現在のようなスタイルで「消防士」「引っ越し屋さん」「プロゴルファー」「自衛隊員」「サッカー選手」の5種類のポーズを披露していました。
この番組ではもちろんあの「アロハ柄」のパンツも着用していましたし、現在と同様、安村の「カモン!」の掛け声で始まり、BGMの「ヘイ!」の掛け声で終わるスタイルになっていました。
このBGMは作曲家・藤井りょうはん氏によるもので『とにかく明るい安村全裸に見えるポーズソング』というタイトルですが、この頃はこの曲が数年後に世界的に有名な曲になるとは思っていなかったでしょうね(笑)。
「安心してください、穿いてますよ」のブレイクと突如の終焉
スタイルがほぼ完成した安村のネタを「世界」に向けて発信するため、吉本興業は2015年7月30日、ヨシモトミュージックのYoutubeチャンネルに、安村のネタを「英語」「韓国語」「タイ語」の3バージョン制作して公開しています。
このときの安村の英語は2023年のBGTのときとは大違いで、それなりに本格的な発音に近づけるようにがんばっていました。
徐々に注目されてきた安村は2015年11月から2月に行われたピン芸人の『R-1ぐらんぷり』で決勝トーナメントに残ります。
Aブロックで惜しくもゆりやんレトリィバァに敗れはしましたが、この年の安村の「ブレイク」を確たるものにしました。
さらに同年年末の「新語・流行語大賞」で「安心してください、穿いてますよ」はベスト10にもランクインしています。
いつものパンツ一丁で流行語大賞の授賞式に出席した安村は「まさかこんな格好で立てるとは思いもしませんでした。今まで受賞した方の中で一番薄着だと自負しております!」と会場の笑いを誘っていました。
実は「新語・流行語大賞」を受賞すると「一発屋で終わる」というジンクスがあるのだそうです。
前年のブレイクの勢いに乗っていた安村ですが、彼もその「ジンクス」の例外にはなりませんでした。
残念ながら2016年4月、あの『週刊文春』に不倫をすっぱ抜かれたことで仕事が激減し、しばらく表舞台から姿を消します。
ブリテンズ・ゴットタレント出場のきっかけは?
日本テレビの『有吉の壁』以外にレギュラーの仕事はなく、劇場の仕事などで食いつないでいた安村でしたが、2023年に大きなチャンスが訪れます。
吉本興業はかねてからいろんな芸人のネタVTRをBGTに送って出場申し込みをしていましたが、安村のネタがBGTの事前選考を通過し、1次予選への出場が確定しました(エントリーや事前選考については『ゴットタレントとは?』をご覧ください)。
これはゴットタレントを見ている方々なら「おお、すごい!ついにあのひのき舞台に!」と興奮しちゃうところなんですが、当の本人は「旅行感覚で行ったんですよ、本当は。イギリス行けると思って。ワンステやって、次の日お土産買って・・・」と、仕事は半分レジャー気分で、本気だったのはお土産情報の収集だったようです(笑)。
しかし実際にBGTのステージに立った安村には「予想外の反応」が待ち受けていました。
【During】1次予選の演技に、会場と審査員の反応は?
ブリテンズ・ゴットタレントのseries16にエントリーした安村の初陣は、第3週目の2023年4月22日土曜日に放送されました。
この1次予選に紺色のバスローブ姿でステージに登場した安村の第一声は「Hallow, London!」でしたが、気負いもなく非常にリラックスしていました。
おそらくこの時点では「終わったら明日はお土産屋さんへ行こう♪」とか、能天気なことが頭の片隅にあったわけですから、気負うはずもありませんね(笑)。
インタビューをする審査員のアリーシャのティーカップを見て「オー、ナイスティーカップ!アイ ライク ティー!」と余裕の対応です。
アリーシャが「I love tea!」と返すと安村も「アイ ラブ ティー!」とオウム返しで応え、さらにはアマンダも加わっての「I love tea!」の合唱に、ブルーノもカップを高く掲げて賛同します。
安村のひどい日本訛りの英語による緊張感のないやりとりは周囲の笑いを誘い、審査員や観客を十分に温めた上に「アイ ライク ティー!」を「第二のネタ」と呼べるほどのパワーワードに押し上げました。
演技開始直前の彼が「My dance never see before(意訳;俺のダンスは見たことないものだぞ)」と不敵な笑みで煽ると、審査員たちは直視しないように目を覆います。
バスロープを脱いだ半裸の安村に会場は騒然、審査員席のアリーシャは目をむいて立ち上がり、アマンダは「Oh, Hello!(意訳;あら、こんにちは~!)」と半分笑って半分困惑したような表情です。
舞台袖のアントは「Oh, I love Toni-Kaku!(好きだぜ、トニカク)」と大喜びしていますが、これは安村のエントリー名「Toni」が、アント(本名はAnthony)の愛称「Tony」と共通であることからの親近感もあるのかもしれませんね。
・・・演技が始まる前のこの時点で、すでに観客と審査員席の「温度」はかなり上がっていたことはまちがいありません。
さてついにTonikaku(安村)のネタが始まりますが、ここは一気に一覧表でご覧ください。
タイトルやBGM、審査員の反応やネタのを表にまとめてみました。
【ネタの英語のタイトル】 | 【ネタのタイトル和訳】 | 【会場や審査員の反応】 | 【使用されたBGM】 | 【ネタのモチーフとなる英国関連の事物】 |
Horse Racer Naked Pose | 騎手の全裸ポーズ | 開始前から手拍子で会場はノリがよい。ポーズ後にアマンダ、そしてアリーシャが安村を指さして笑う。安村の「I’m wearing」のオチにアマンダが「Pants!」と応える。 | 『とにかく明るい安村全裸に見えるポーズソング』 | 英国は競馬発祥の地であり、レースは年中盛んに行われている。 |
Football Player Naked Pose | サッカー選手の全裸ポーズ | 演技中のBGMにアリーシャは踊る。ポーズ後、アマンダは立って拍手、アリーシャも立って腕をグルグル回して喜ぶ。「I’m wearing」に再びアマンダが「Pants!」と応える。 | 『とにかく明るい安村全裸に見えるポーズソング』 | Manchester Unitedなど強豪チームがあり、サッカー熱も高い。 |
James Bond Naked Pose | ジェームズボンドの全裸ポーズ | ポーズ後、アマンダはギャハハーと大笑い、サイモンも手を叩いて喜ぶ。「I’m wearing」にアマンダとアリーシャが「Pants!」と応える。アリーシャは「天才的!」と褒める。 | “The James Bond Theme (Symphonic Version)” | 1962年以来シリーズ化されている世界的に有名なアクション映画の主人公。 |
Spice Girls “Wanna Be” Naked Pose | スパイス・ガールズ “ワナビー”で全裸ポーズ | ポーズ後、審査員4人全員と観客の多くがスタンディングオベーションを贈る。「I’m wearing」にアマンダとアリーシャが両手を広げて「Pants!!」と応える。 | Spice Girls “Wanna Be” | スパイス・ガールズは英国の5人組女性アイドルグループで、メンバーのMelanie Janine Brown(メルB)はAGTの審査員でもあった。 |
いかがでしたでしょうか?とくに【会場や審査員の反応】をタテに追って見ていくと、周囲の反応がどんどん盛り上がっていくのがよくわかりますね!
また【ネタのモチーフとなる英国関連の事物】を見れば、Tonikakuがいかに英国用にネタを工夫して臨んだかがよくわかるのではないでしょうか。
1次予選への審査員のコメントとジャッジは?
では続いて演技後の講評(コメント)と判定(ジャッジ)ですが、こちらも一覧表でどうぞ!
審査員 | コメント | 判定 |
アリーシャ | アリーシャ「これまでのシリーズの中で、私が一番気に入った出場者かもしれない」 安村「アリガトウゴザイマス!」 アリーシャ「いや、アリガトウゴザイマスという言葉はあなたに贈りたい!」 | アリーシャ「トニー・カク、『yes』よ!」 安村「本当に?」 アリーシャ「yes!!」 |
ブルーノ | ブルーノ「間違いない。君にはタマ(勇気の意味も)がある!」「素晴らしいとしか言いようがない!」 | ブルーノ「私からは『yes』を」 |
アマンダ | アマンダ「トニー、あなたはとても独創的!心からBGTを感じて気に入ったわ!」 | アマンダ「私からも『yes』よ、トニー。」 |
サイモン | サイモン「トニー、君は今年一番面白い出場者だ、本当に」 安村「ファニーボーイ!」 サイモン「本当に面白くて独創的だよ」 安村「サイモンの全裸ポーズは?」 サイモン「いやいやいや」 安村「サイモン?」 サイモン「期待させておくんだ・・・」 | サイモン「トニー、本当に君には驚かされた」 安村「アンビリバボー?」 サイモン「ハハハ・・・君は素晴らしい。」 安村「サイモン、惚れた?」 サイモン「もちろん惚れたよ」 安村「アンビリバボー・・・」 サイモン「君に『4yeses』だ!」 安村「本当!?」 |
こうしてTonikakuは「4つのyes」を見事に勝ち取りました。
バスローブを拾って退場するTonikakuへ「Bye, Tony!」と声援を送る女性に「アイ ライク ティーッ!」と応えてダメ押しの笑いをとる安村は、もうお土産屋さんのことなど考えている風ではありませんでしたね。
準決勝の演技に審査員の反応は?そして結果は?
1次予選を大爆笑の中4つのyesで通過し、2次予選の「ジャッジ・カット(非公開の審議による当落)」も通過したTonikakuは、準決勝の第5週目(最終組)に登場しました。
この最終組は、準優勝したリリアナ・クリフトン(ソロダンサー)と、最終成績3位のキリアン・オコーナー(マジシャン)の2組がいるという言わば「最強組」です。
ステージに現れたTonikakuは今回、背中にイギリス国旗が入ったガウンを着ています。
「I’m Tony. Hi, London!」と挨拶し、客席に背中を向けてユニオンジャックをアピールすると、躊躇なくガウンを脱ぎます。
いつもの「私はパンツを穿いています。でも、全裸のふりができます!」の前説に加えて、この準決勝では「今日はイギリス人の全裸ポーズだよ!」と付け加えます。
しかしこの時点で客席の温まり具合はそれほどでもありませんでした。
むしろ1次予選の「I like tea!」「I love tea!」のときの方が会場の雰囲気は良かったと思います。
ではここから、準決勝のTonikakuのネタを一覧表でご覧ください!
【ネタの英語のタイトル】 | 【ネタのタイトル和訳】 | 【会場や審査員の反応】 | 【使用されたBGM】 | 【ネタのモチーフとなる英国関連の事物】 |
Afternoon tea naked pose | 午後の紅茶の全裸ポーズ | 会場の拍手へのノリはよいが、「I’m wearing」への反応はまだそれほど多くはない。 | 『とにかく明るい安村全裸に見えるポーズソング』 | 紅茶は1600年代から貴族の間で流行し始め、今では庶民にも愛されている。ティータイムは英国を代表する文化。 |
Royal guard naked pose | 王室近衛兵の全裸ポーズ | アマンダ審査員は喜んでいた。会場の「パーンツ!」の反応が揃いはじめる。 | 『とにかく明るい安村全裸に見えるポーズソング』 | ロンドンの名物。観光資源としての認識が強いが、実戦の訓練も装備も施されているリアルな軍人。 |
Cricket naked pose | クリケットで全裸ポーズ | キメの全裸ポーズが不安定でグラグラしている。ブルーノ審査員がこのポーズを見て何か言っているが不明。会場の「パーンツ!」の反応はひときわ大きい。 | 『とにかく明るい安村全裸に見えるポーズソング』 | 1600年代終盤にイギリス南部で始まった。ティータイムもあるという、格調高いスポーツ。大英帝国植民地だったインドなどでも人気が高い。 |
Abbey Road naked pose | アビイ・ロードで全裸ポーズ | 最もヒネリのないネタだが、会場の「パーンツ!」の反応はよい。ネタ後に安村は「Nice Pants!」と言っているが、これは観客の反応に対する謝辞だろう。 | 『とにかく明るい安村全裸に見えるポーズソング』 | アビイ・ロードは「修道院への道」という意味だが、世界的に有名なのは1969年に発表されたビートルズ(Beatles)の楽曲名。ネタのビジュアルはもちろん当時のレコードジャケットを再現している。 |
Lewis Hamilton naked pose | ルイス・ハミルトンで全裸ポーズ | ヘルメットの装着とハンドルを持っているため、やや「全裸感」に乏しい。アマンダ審査員のスタンディングオベーションがややサクラに見えるが、会場の「パーンツ!」の反応は非常によい。 | 『とにかく明るい安村全裸に見えるポーズソング』 | イギリスを代表する現役のF1ドライバー。幼少期からカートレースで才能を発揮し、F1ではマクラーレンやメルセデスで活躍している。 |
Elton John naked pose | エルトン・ジョンで全裸ポーズ | 最後の全裸ポーズ(床に横たわり)が終わると、審査員全員と観客の多くがスタンディングオベーション。しかし喝采の声が大きく「Don’t worry, I’m wearing」がよく聴こえないため、「パーンツ!」の反応はあまり大きくはなかった。 | Elton John “I’m Still Standing” | イギリスが世界に誇るミュージシャン。ピアノでロックを行うスタイルを定着させた元祖とも言える。1969年のデビュー以来、世界で3億枚のセールスを記録している。 |
準決勝のこの組からは2組が決勝に通過できますが、まず1組目はアプリによる視聴者投票でこの組の第1位を獲得したキリアンが決勝に通過しました。
決勝へ進む2組目は審査員の評決により、リリアナかTonikakuかが選ばれます。
ダンス出身のブルーノ審査員はもちろんリリアナ、続いてアリーシャ審査員もリリアナを指名。
そして3人目のアマンダ審査員もリリアナを指名し、4人目サイモン審査員の評決を待たずにリリアナ・クリフトンの決勝進出が確定しました。
「準決勝から決勝へ進む2組目は、視聴者得票数2位と3位の中から審査員の評決で決定」ということは事前にルールで定められていたことなので仕方がないのですが、実はこのときTonikakuのアプリによる視聴者得票数は、1位のキリアン29.4%に続く18.3%で2位だったそうです(リリアナは17.7%)。
Tonikakuはこの準決勝終了時点で「敗退」となりましたが、のちに「ワイルドカード」によって決勝戦線に復活することになります。
BGTでは日本人初の快挙!Tonikakuの決勝進出はワイルドカードだったが、英国内では批判も・・・
これまでAGTでは日本人ダンサーの「蛯名健一(EBIKEN)」が決勝へ進出し優勝までしたことがありましたが、BGTではいまだに決勝進出者がありませんでした。
その意味で今回のTonikakuの決勝進出はまちがいなく「快挙」ではあったんですが、これについては批判する声もあったようです。
Tonikakuの決勝進出は、準決勝各組から2名ずつ選ばれた「第1通過者(視聴者投票1位)」「第2通過者(視聴者投票2位と3位から審査員が選ぶ)」の次、つまり「実質3位」の参加者の中から「救済措置」として選ばれる「ワイルドカード枠」によるものでした。
このBGTではワイルドカード枠への選出が非公開で行われたようですが、この選出方法とその結果にはネット上でかなりの批判があり、それはTonikakuのワンパターンな裸芸に対する不満が基(もと)となっていたようです。
「(Tonikakuの復活は)ワイルドカードによる救済措置から漏れた出場者への侮辱」だとか「Tonikakuは面白くはあったがもう飽きた」などとの不満がSNS上に投稿され、ここから批判は「ワイルドカード枠は視聴者投票にすべきだ」とか「審査員はもう解雇するべきだ」などと「運営側へのクレーム」に発展し、物議を醸しました。
このような批判は当然サイモンら審査員・プロデューサーには届いたと見えて、このあと同年の5月から行われたAGT(アメリカズ・ゴットタレント)season18では、番組中にワイルドカード枠の候補者に対してアプリによる視聴者投票を5分間限定で行い、その結果で通過者を選出していましたね(ただし通過を勝ち取ったのは、やはり日本人グループのアバンギャルディでしたが)。
ここからは管理人の私的な意見になりますが、私もTonikakuの準決勝の演技についてはけっこう疑問を感じました。
「イギリスの名物」をモチーフにしたネタだったことはよくわかりますが、肝心の全裸に見えるポーズの「ひねり」がほとんどなく、予想を上回るような「ポーズ」や「ポーズへの展開」がありませんでした。
ルイス・ハミルトンのF1のネタでは、周囲のタイヤのセットやヘルメット・グローブの装着に手間がかかり「パンツを穿いて普通に何かを行っている」という「キメの全裸ポーズと対比になるシーン」がなかったため、こじつけたようなオチになったと感じました。
おまけにクリケットの全裸ポーズではグラグラしてしまい、とても「安心してください!」とは言えない出来ばえでしたよね?
・・・1次予選の「サッカー選手の全裸ポーズ」でもぐらつく失敗はやっているんですから、せめて同じ失敗を繰り返すようなことは避けてほしかったと思います。
ところがTonikakuはこの後紹介する決勝でも同じようにキメの全裸ポーズでグラグラしており、これではミスを排除するためにたくさんの練習を重ねてきた参加者に比べれば「明らかに下位」と思われても仕方ありません。
「片脚立ち」や「前後に脚を開くポーズ」というのは、もともとが「移動するための姿勢」でありバランスを動的に崩している姿勢なので、逆に「静止する」というのが難しい姿勢です。
しかしTonikakuの演技の中では、パンツを隠すためにこれらの姿勢は避けて通れませんし、失敗する箇所も明らかなわけですから、まじめに対策をしていただきたいと感じました。
またこの「バランス立ち」の能力は加齢によってどんどん衰えていきますから、Tonikakuはごく近い将来、この芸ができなくなる可能性も十分にあると言って過言ではないでしょう。
おせっかいな話ですが、このバランス立ち能力の低さは放置せずに、スポーツの専門家に早めに相談して「グラグラしない立ち方」を基礎からきちんと習得し、安心できる老後に備えてほしいと思います(笑)。
とにかく明るい安村の決勝ステージのネタは?・・・そして結果は?
こうした準決勝での紆余曲折を経て、TonikakuはBGTのステージに戻ってきました。
決勝のステージでは、映画『ターミネーター2』のオープニングシーンをオマージュした舞台セットと全裸ポーズで登場し、「I’m back! !」のセリフをキメたTonikaku。
この全裸ポーズからの「Don’t worry, I’m wearing」に応える観客の「パーンツ!」の大合唱も、BGTの会場に帰ってきたようです。
「今日はスーパーヒーローの全裸ポーズだよ!」との一言でTonikakuの演技が開始されます。
では決勝の模様を一覧表でどうぞ!
【ネタの英語のタイトル】 | 【ネタのタイトル和訳】 | 【会場や審査員の反応】 | 【使用されたBGM】 | 【ネタのモチーフとなる英国関連の事物】 |
※誰の全裸ポーズかは言わずにスタートしている | (スパイダーマンの全裸ポーズ) | 糸を発射するポーズは片脚立ちで相変わらずグラグラしているが、観客のテンションは高く「パーンツ!」の合唱もパワフル。 | 『とにかく明るい安村全裸に見えるポーズソング』 | 2019年公開の『スパイダーマン・ファー・フロム・ホーム』では英国のタワーブリッジもロケ地のひとつになった。 |
※誰の全裸ポーズかは言わずにスタートしている | (バットマンの全裸ポーズ) | 前後に脚を開いたポーズもグラグラしているが、そんなことはお構いなしに観客は「パーンツ!」と気持ちよく叫ぶ。おそらく芸を観るよりも叫ぶことが目的なのだろう。 | 『とにかく明るい安村全裸に見えるポーズソング』 | 2005年公開の『バットマン・ビギンズ』はアメリカとイギリスの合作。 |
※誰の全裸ポーズかは言わずにスタートしている | (スーパーマンの全裸ポーズ) | 観客はもちろん「パーンツ!」と叫んでいるが、ブルーノ審査員も一緒に叫んでいるのが確認できる。 | 『とにかく明るい安村全裸に見えるポーズソング』 | 2013年公開の『マン・オブ・スティール』で主役のスーパーマンを務めたヘンリー・カヴィルはイギリスの俳優。 |
Villain naked pose(Villain =Simon) | 悪役の全裸ポーズ(悪役とはsimon審査員のこと) | 観客のウケも非常によく、審査員席は大盛り上がりを見せる。サイモン・コーウェルも苦笑いだが楽しそうに見える。観客の「パーンツ!」の反応もよい。 | 『とにかく明るい安村全裸に見えるポーズソング』 | サイモン・コーウェルはイギリス出身。レコード・プロデューサー及びTVプロデューサーとして世界的に有名。ゴットタレントなど自らが制作するオーディション番組では、激辛な批評で幾多の参加者を泣かせてきた。 |
My super hero “Freddie Mercury” naked pose | 僕のスーパーヒーロー「フレディ・マーキュリー」の全裸ポーズ | ラストはバックダンサーも全員股間を隠すポーズをキメて、TV画面として非常によい絵になった。審査員は全員スタンディングオベーションをしている。観客の歓声が鳴りやまず、Tonikakuの「Don’t worry, I’m wearing」 は聴こえづらかった。 | Queen “Don’t Stop Me Now” | イギリスのボーカリストおよび作曲家。ロックバンド「Queen」のボーカルとして有名だが、ステージパフォーマンスの評価も高い。45歳の若さで病死したが、その影響力はいまだに強く、2018年には伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』も公開された。 |
こうしてTonikakuの決勝の演技は大歓声の中に終了し、視聴者の評価(アプリによる投票)を待つことになりました。
ではその結果を見てみましょう!
順位 | 出場者名 | ジャンル | 出身地 |
優勝 | ヴィゴ・ヴェン | コメディアン | ノルウェー→イギリス |
準優勝 | リリアナ・クリフトン | ソロダンサー | 英国リバプール |
3位 | キリアン・オコーナー | マジシャン | アイルランド |
4位 | マラカイ・バヨー | ソロシンガー(オペラ) | 英国ロンドン |
5位 | ムーサ・モーサ | ソロダンサー | 南アフリカ→イギリス |
6位 | ゲットー・キッズ | ダンスグループ | ウガンダ |
7位 | エイミー・ルー | ソロシンガー | 英国ティプトン |
8位 | トラビス・ジョージ | ソロシンガー | 英国南ウェールズ |
9位 | オリビア・ラインズ | ソロシンガー | 英国バース |
10位 | デュオ・オデッセイ | アクロバットデュオ | ウクライナ/英国リバプール |
11位 | Tonkaku(とにかく明るい安村) | コメディアン | 日本 |
ご覧のとおりTonikakuは11位でしたが、これはBGTのアプリ投票が「10点満点のうち何点をその出場者に与えるか」という形式が大きく影響していると管理人は考えています。
1人の出場者に対して10点しか与えられないということは、すなわちその評価方法が「減点方式」であるということです。
それは「どんなに強く支持していても10点までしか与えられない」ことであり、なおかつ「強く支持しないことについては10点の幅で表現できる」ということになります。
つまり「大好き!」よりも「嫌い。」を評価するのに向いた形式と言えるんですね。
ワイルドカードでの決勝進出について英国内で批判があったように、Tonikakuの芸には一定数のアンチがいたようですし、笑ってはいても「くだらない」「これをチャールズ国王に見せるのか」と批判的な視線も持っていた人がいたことは想像に難くありません。
このように考えればTonikakuの決勝最下位は、マイナス評価を表現しやすいBGTのアプリ投票ならではの結果だと言えるのではないでしょうか。
そしてその一方で「強い支持」や「大好き!」を表現しやすい「動画の再生数」については、Tonikakuの評価がアプリ投票とはまったく逆であったことについては次のコーナーで解説しましょう。
【海外の反応】Tonikaku のパフォーマンスに海外のネット民の反応は?
Tonikakuの挑戦は「ファイナリスト11位」という結果に終わりましたが、動画にはたくさんのコメントが寄せられました。
BGTのYoutubeにはいくつかの動画が上がっていますが、その中からリアルタイムに近いと考えられる「1次予選」「準決勝」「決勝」の動画のコメントを見てみましょう。
これらからTonikakuに対する海外の反応を整理し、これも一覧表にまとめてみました。
なおサンプルは「日本語名ではない投稿者」によって「日本語以外の投稿」がされている発言を対象としていますが、内容は日本語に翻訳したものを掲載しています。
(0)Tonikakuと上位者の各ステージでの動画への反応数の比較(2024年4月11日現在)
(1)1次予選の演技に対する肯定的なコメント5選と否定的なコメント5選
(2)準決勝の演技に対する肯定的なコメント5選と否定的なコメント5選
(3)決勝の演技に対する肯定的なコメント10選と否定的なコメント5選
(0)Tonikakuと上位者の各ステージでの動画への反応数の比較(2024年4月11日現在)
出場者(最終成績) | Tonikaku(11位) | Viggo Venn(優勝) | Lilliana Clifton(準優勝) | Cillian O’connor(3位) |
ジャンル | コメディアン | コメディアン | ソロダンサー | マジシャン |
1次予選 | 41万回/219コメ | 97万回/754コメ | 247万回/1128コメ | 128万回/957コメ |
準決勝 | 326万回/1284コメ | 252万回/1686コメ | 79万回/333コメ | 146万回/923コメ |
決勝 | 716万回/4130コメ | 376万回/3650コメ | 119万回/845コメ | 88万回/775コメ |
上の表はTonikakuと今回のBGTの上位3名の動画の再生数・コメント数を比較したものですが、いかにTonikakuの再生数がすごいかわかりますね!
「安村の動画の再生数の大部分は日本人だろう」と考える人もいらっしゃるかもしれませんが、万が一そうだとしても、ゴットタレントが世界の才能を発掘する企画番組である以上、視聴者を集められる人材であることが証明できるのならばそれは「番組にとって有意義」だと言えるのではないでしょうか。
この決勝パフォーマンスの動画のダントツの再生数を見れば、Tonikakuをワイルドカードで決勝に復活させたことは、番組にとっては「正解」以外の何物でもありませんね。
さてでは、日本人以外の方々がTonikakuのパフォーマンスをどのように評価していたのかを、BGTのYouTube動画のコメントから拾い出してみましょう!
(1)1次予選の演技に対する肯定的なコメント5選と否定的なコメント5選
投稿者 | 肯定的なコメント5選 | いいね数 |
@rocco*** ***akos | 私は彼の裸のポーズが大好きで、彼は私の人生を何よりも素晴らしいものにしてくれた。 | 81 |
l@kash*** ***elgram | デビッドならゴールデン・ブザーを与えただろう | 73 |
@jen*** ***21 | トニーはとても優しい。彼の人柄が大好き。彼の演技はクリーンで面白かったし…。 | 68 |
@cotak*** ***chi6103 | トニカクはその素晴らしいプレーでイギリス中の人々を喜ばせた! | 66 |
@user*** ***2tz7s | 最後の “I like tea “は見事だった。 | 42 |
投稿者 | 否定的なコメント5選 | いいね数 |
willyvo*** ***he729 | 今まで見た中で最も愚かな行為だ。 | 3 |
evely*** ***tt870 | 自分には面白くなかった | 2 |
junai*** ***s1676 | 今年最悪で不適切な演技。AGTはこれを許さないだろう。 | 1 |
user*** ***rl6c | 日本人の皆さん…同じ東アジア人として恥ずかしいです。自分たちがこういうことを海外に広めれば広めるほど、東洋人に対するステレオタイプがさらに強くなることを知らないのでしょうか。 外国人が見て東アジア人の区別がつかず、こういうことが広まれば私たちにも影響が出ます….。 | 0 |
johr*** ***to384 | この番組はどうしたんだ? 頼むから廃案にしてくれ。面白くもなんともない。 | 0 |
(2)準決勝の演技に対する肯定的なコメント5選と否定的なコメント5選
投稿者 | 肯定的なコメント5選 | いいね数 |
@carl*** ***n2388 | この男は伝説だ! これぞ才能とエンターテイメントだ | 714 |
@blue*** ***h5000 | 彼が自分のことを他のビートルズのメンバーとともに「ポール」と表現したときは、笑いすぎて死にそうになった。 彼は天才だ。 | 678 |
@chiz*** ***a3537 | とてもよくできている。そして、一緒にステージに上がったすべての人にありがとうと言うところに、日本人の育ちの良さが表れている。 | 674 |
@Ayr*** ***gam | 大笑いだよ!こいつを復活させてくれ。こんな独創的なアクトがあるから、日本は世界を支配しているんだ!ありがとう、レジェンド!ハミルトンとエルトンのパートはこの世のものとは思えない!伝説的なTVの瞬間! | 420 |
@Gail*** ***z | 彼は決勝進出を逃したが……彼は素晴らしく、あんなに笑ったことはない。WILDCARD…2023年優勝者 | 397 |
投稿者 | 否定的なコメント5選 | いいね数 |
@sara*** **9333 | あほらしい | 6 |
@maks*** ***o78 | BGTは樽をかき集めている(意訳;ネタ切れで残りカスを集めている) | 5 |
@Don*** ****rump | トップ3では、自分に勝った2人の選手を普通の人のように認めたり祝福したりしない態度が気に入らなかった | 5 |
@theH*** ***dboys | どうして彼が決勝に? | 4 |
@aard*** ***dshank | この世界はどうなってしまったのだろう | 3 |
(3)決勝の演技に対する肯定的なコメント10選と否定的なコメント5選
発言者 | 肯定的なコメント10選 | いいね数 |
@Gan*** ***thorII | たった一枚の服で多くの人を笑わせ、喝采させることができるのは真の才能だ。ロイヤルファミリーの前でパフォーマンスしてほしいものだ。 | 2713 |
@rir*** ***770 | みんな楽しそうに笑っていた! 彼は戦争を止める世界最後の希望に違いない。 | 2476 |
@owki*** ***yu9879 | パンツ一丁で世界に立ち向かった男。 | 2192 |
@jose*** ***s5131 | まさに純粋なコメディだった!観客も、審査員も、そしておそらく自宅の視聴者も、あの「パァーンツ!」のおかげでみんなつながったのだ。イギリス🇬🇧、トニ・カクが大好き!!そして世界中がトニ・カクを愛している! | 889 |
@ant*** ***dm | こんなくだらないコンセプトで多くの人を楽しませることができるということは、彼には特別な才能があるということだ! これこそショーのために作られたものだ! 大好きだ | 595 |
@dom*** ***h9290 | 一日前、トニカクは3百万ビューを誇っていた。人々は本当にトニカクを応援していたのだ。 | 516 |
@goh*** ***n8846 | すべてのヒーローがマントを着ているわけではないが、彼はパンツをはいているので心配はいらない! | 397 |
@hea*** ***a6387 | アンバランスなポーズ、落ちた口ひげ、全体のおかしみがとても好きです。人生は深刻になりすぎてはいけない。 | 380 |
@figh*** ***p960 | トップ3には入れなかったが、観客の反応を見れば、彼はすでに優勝者だ。がんばれ、トニカク! | 350 |
@bos*** ***kete | すごい!結局、彼はワイルドカードとして選ばれた!お約束のサイモンのヴィランとしての裸のポーズもよくやってくれました。ターミネーターの登場も含めて、やりきった感がある。 | 183 |
投稿者 | 否定的なコメント5選 | いいね数 |
@zoli*** ***ni1 | 彼には、こんなことをしてはいけないと言ってくれる家族や友人はいないのだろうか? | 5 |
@Pe*** ***t30 | 彼が決勝に進出すべきだったとは思わない | 4 |
@dipa*** ***eb79 | もしこれが英国の才能の定義だとしたら、ブレグジット(イギリスのEU離脱)はEUにとって良いことだった。 | 2 |
@Wil*** ***qad | もしこれが決勝戦なら、我々はタレントの定義を失ったことになる。 | 1 |
@moo*** ***t2245 | 西の偽善者タレント | 0 |
こうしてコメントを読んでみますと、讃辞にはもちろん賛同できますが、批判的なコメントにも共感できる部分があり、Tonikakuの芸はいろんな人にいろんな意味で「BGTの存在意義」や「芸の在り方」について真剣に考える機会を与えてくれたのではないかと感じました。
そういった意味でも、とにかく明るい安村がこのBGTseries16で最も注目された出場者であったことは間違いのない事実でしょう!
【考察】BGTは安村の何に安心していたのだろうか?
安村の芸には、本人が「安心してください」とアピールするとおり、いくつかの「安心」があります。
管理人が彼の芸の中にある「安心」を5つの項目に整理してみましたので、このコーナーではその「5つの安心」について考察・解説していきますね!
①パンツを履いているので、見たくないものが見えることはないという安心感
②パターンにしたがってネタが展開される安心感
③「パーンツ!」と叫ぶことが非常識ではない安心感
④標準から少しはずれた「メタボ体形」への安心感
⑤言葉が通じなさそうでギリギリ通じている(あるいはきちんと通じなくても大丈夫)という安心感
①パンツを履いているので、見たくないものが見えることはないという安心感
これはネタのとおりなのですが、安村のこのネタは放送事故につながるような露出、たとえば「アキラ100%」のお盆芸のように「もしかすると見えちゃうかも!?」・・・と、ヒヤヒヤするシーンがありません。
ビキニパンツは小さな女性用ですが、それを前後逆に履いて股間側がしっかり隠れるように配慮していることも、この「安心感」を強化しているのではと思います。
②パターンにしたがってネタが展開される安心感
安村のネタ構成は、
(1)タイトル
(2)シチュエーションを説明するためのジェスチャー
(3)全裸に見えるポーズ
(4)「安心してください、履いてますよ!」のキメ台詞
の4つでパターン化されています。
このパターン化によって、観客は「いつ」「どこで」「何に」笑えばいいのかがすぐ理解できるので、安心してネタを楽しむことが容易です。
③「パーンツ!」と叫ぶことが非常識ではない安心感
BGTではこの「パターン化」の延長線上に、さらに観客側のリアクションとして「パーンツ!」の掛け声がありますね。
これについては「普段は大声で叫んだら非常識になるような単語」を思いっきり叫ぶことができること、しかもそれがパターン化によって「間違いのないタイミング」で「同席した人達に混じって」叫ぶことができるという安心感があると思います。
④標準から少しはずれた「メタボ体形」への安心感
現在イギリスでは肥満が急増しており、体重超過または肥満の割合は女性で59%、男性では69%にもなっているといいます(2022年データ)。
肥満はイギリス国民の大きな関心事になっており、当然ウェスト周りのいわゆる「浮き輪肉」は憎むべき肥満のシンボルのひとつとして、冷ややかな視線を浴びていたのではないでしょうか?
しかし「健康と長寿の国・日本」から来た芸人がバスローブを脱ぐと、そこにはちょうどいい具合の「浮き輪肉」があるではありませんか!?
・・・しかもそれは、食い込んだビキニパンツのゴムのあたりに覆いかぶさり、この芸人のネタになくてはならない「マストアイテム」になっているのです。
なかなか減らない自分のウェストサイズにコンプレックスを抱いている多くのイギリス国民にとって、安村の体形は「なんだ、これ?・・・浮き輪肉がお腹周りにあったっていいんじゃないの?」という安心感を与えたのではないでしょうか。
⑤言葉が通じなさそうでギリギリ通じている(あるいはきちんと通じなくても大丈夫)という安心感
安村の英語は発音をはじめかなり崩れていると思いますが、コミュニケーションとして「ギリギリ通じている感」は、あの名作「E.T.」にも通じるものがありますね(笑)。
われわれ人間は他の動物や宇宙人、あるいはロボットなど「普通ならば心が通じ合わないであろう存在」と言葉や心が通じ合ったとき、大きな安心感を得ることができます。
安村のたどたどしい英語は、彼をいったん「普通ならば心が通じ合わないであろう存在」まで下げ、そののち「ギリギリ通じている存在」として観客に受け止めてもらえるような「仕組み作り」に成功したのではないでしょうか。
【After】駐日英国大使館に招待され、ネタ披露!
2023年6月22日、とにかく明るい安村は自身のInstagramで、
「駐日英国大使館で執り行われた、チャールズ3世国王陛下の誕生及び戴冠式祝賀会に招待していただきました!」と報告し、
「英国大使館で裸になるなんて信じられない!アンビリーバボー!最高でした!おめでとうございます!!!」と喜びを語りました。
スーツで大使館を訪問した安村は真っ白いガウンに着替え、ジュリア・ロングボトム駐日英国大使と笑顔で握手を交わします。
もちろんガウンの下にはいつものTonikakuのいでたちです。
集まった方々からは、お約束となった「パーンツ!」のコールも聞かれたとか。
しかし通常は裸足で演技をするTonikakuですが、この日の足元は真っ赤な「カープソックス」を着用していました。
これは同年5月にG7広島サミットで来日した際に、英国のスナク首相がはいていた靴下と同じなそうで、外相の心遣いへの「返礼」という意味なのかもしれませんね。
「いつもより余計に穿いてますよ!」とは言わなかったようです(笑)。
ロンドンの「ジャパン祭り」でも安村がステージに!
2023年10月1日、ロンドンのトラファルガー広場で4年ぶりに『ジャパン祭り』が開催されました。
日本の味覚の試食販売や、日本舞踊・ソーランなどの日本文化の公演に混じり、BGTで”Tonikaku”「として有名になった安村もステージに登場してネタを披露しました。
BGTseason16の決勝が6月4日でしたから、Tonikakuが英国の観衆の前に立つのは約4ヶ月ぶりのことになります。
BGTの本戦と同様のユニオンジャックが背中に大きく入ったバスローブでTonikakuが登場すると、会場は大歓声に包まれました。
「Don’t worry, I’m wearing…」のキメ台詞に「Pants!」の大合唱で応えるノリも、当時と変わりません。
ただしBGTでは披露しなかったネタもあったようで、料理をする人の全裸ポーズが行われていました!
TV局のインタビューに「まさかこのトラファルガー広場でネタをやるとは思ってもみなかったんで・・・何があるかわかないなって思いますね。」と真面目に答えるTonikakuの表情は、芸人からちょっと「文化人寄り」になっていた気がします(笑)。
フランスのゴットタレントにもTonikakuが登場!
2023年の後半に行われたフランスのゴットタレント(FGT)にもTonikakuが出場しました。
まずは1次予選のネタを一覧表でご覧ください。
日本語タイトル | 使用された楽曲 | 振付やポーズの詳細 | ネタのモチーフとなるフランスとの関連事項 |
サッカー選手の全裸ポーズ | 『とにかく明るい安村全裸に見えるポーズソング』 | 蹴ったポーズではなく、ゴールを決めた喜びに両膝を着いて片手を挙げたポーズ。 | 特になし |
ドラゴンボール孫悟空の全裸ポーズ | 『とにかく明るい安村全裸に見えるポーズソング』 | 下半身は両脚を左右に大きく開いた(騎手と同様の)ポーズで、上半身は「かめはめ波」のポーズ。 | 特になし |
ジェームズボンドの全裸ポーズ | “The James Bond Theme (Symphonic Version)” | BGTと同じ。スムーズさのない横転からの片膝立ちで、ピストルを構えるポーズ。 | 特になし |
スパイスガールズで全裸ポーズ | Spice Girls “Wanna Be” | BGTと同じ。さまざまなポーズの詰め合わせ。 | 特になし |
・・・1次予選のネタはBGTのときとほとんど変わらず、これではフランスへの配慮が感じられませんね。
しかし会場は「穿いてますよ!」の掛け声を共有し、それなりに盛り上がっています。
4人の審査員から2つのレッドブザーをもらい、ジャッジでも2つのyesはなんとか確保したものの、3つ目のyesは難航しました。
結局Tonikakuの「拝み倒し」と、はじめにyesを出した2人の審査員の強烈なプッシュでなんとか3人目のyesが獲得でき、ようやく1次予選を突破します。
ところが1次予選の出来を反省したのか準々決勝のネタはすべて新作で、しかもフランスへのリスペクトが感じられる素晴らしいネタでした。
日本語タイトル | 使用された楽曲 | 振付やポーズの詳細 | ネタのモチーフとなるフランスとの関連事項 |
名画モナ・リザの全裸ポーズ | 『とにかく明るい安村全裸に見えるポーズソング』 | 横向き立ちで両手を股間に組み、「ヘイ!」の掛け声とともに正面を向いてモナ・リザの微笑。 | 世界一有名といっても過言ではない名画『モナ・リザ』は、パリのルーブル美術館に展示されている。 |
ファッションショーの(?)全裸ポーズ | Madonna “Vogue” | ランウェイを歩くモデルを演じるTonikakuはその表情もいい。キメの全裸ポーズは四股のような姿勢から上半身をねじって右肩を下げた新しいポーズで、前衛的なモデルの雰囲気がある。 | 年に2回開かれるパリ・コレクションは世界のファッションの最前線として有名。楽曲名の”Vogue”はアメリカのファッション誌として有名だが、フランス語の「流行」を意味する「Vogue」がその語源。 |
白鳥の湖の全裸ポーズ | The Regency Philharmonic Orchestra “Dance of the Little Swans” | バレエの部分はお粗末。ターン後の手の振付に一瞬、故・アホの坂田師匠の動きが見える。キメの全裸ポーズは両腕を横に広げ、片脚を後ろに高く(?)挙げたポーズだが、グラグラがひときわ酷い。 | バレエはその原型こそイタリアでできたが、現在の姿に発展させたのはフランス。バレエ(ballet)という名称自体もフランス語。パリ・オペラ座バレエ団は世界4大バレエ団のひとつ。 |
フレンチ・カンカンで全裸ポーズ | 大沢可直&東京佼成ウィンドオーケストラ『天国と地獄』 | さまざまなポーズの詰め合わせだが、ラストの全裸ポーズは座って片脚を組んだ新しいポーズ。名画やグラビアを連想させる美しいポーズに、Tonikakuの意欲がうかがえる。 | 1800年代からキャバレーや劇場で行われてきたラインダンスの一種。フランスでは単にカンカン(cancan)と呼ばれる。ロングスカートとペチコートをまくり上げ、脚を高く挙げる振り付けで有名。 |
審査員の間は賛否で割れ、その中の1人は「ここ(準々決勝)まで来たのもあり得ない。よくない。」「フランス最高のアーティストが出ている中に、日本人最低のアーティストが出ている。」と酷評していたようですが、観客のウケは良かったようです。
結果は残念ながら「準々決勝で敗退」ということでしたが、BGTのときのネタに比べるとかなり「新作」の要素があり、今後に期待を抱かせる出来だったと思います!
【衝撃】BGTの決勝ネタ、実は現地スタッフの作だった!
BGTを振り返った6月11日の「ワイドなショー」の中のインタビューで、とにかく明るい安村は「準決勝のあとすぐ打ち上げして火鍋を食べているときに、決勝進出の連絡がきた」「『あしたリハーサル』と言われたときにはネタがひとつもなかった」と、こともなげに舞台裏の事情を明かしています。
「ダンサーをつけるとか、振付とかみんな向こうの番組スタッフが考えてくれた」ということで、なんと全部向こうのお膳立てに乗っかっていたんですね!
決勝動画へのネットユーザーからのコメントには、
「1次予選で匂わせた『サイモンの全裸ポーズ』の伏線を、この決勝で回収するとは!」とか
「英国とは関係のない正義のヒーローでネタを固めたのは、ラスト前でサイモンという『悪役』を出すためだったのか!」
・・・などという「深読みした絶賛」が相次いでいたんですが、これらが全部BGTスタッフ側の仕掛けだったと聞くと、ちょっと損した気持ちにもなりますね(笑)。
しかし当の本人はいたく英国が気に入ったらしく、帰国後のトークイベントでは「優勝したらイギリスへ移住しようと考えていた」というコメントも残していました。
お膳立てに乗っかるときにはのっかる、その大らかさが彼のナンセンスな芸を生み出していると考えて、安村の呑気さに我々も安心しておきましょう!
【終わりに】裸芸は神事にさかのぼる日本古来の伝統芸
これまでAGTやBGTに出場して好成績を修めた日本人パフォーマーの中には、「半裸」というスタイルが目立つことは皆さんもお気づきかと思います。
ゆんぼだんぷ・ウエス p・ゆりやんレトリィバァなど、半裸で会場を沸かせた日本人芸人の印象は強く、「裸芸は日本の伝統なのか?」と感じた海外の方は少なくないでしょう。
また先に挙げた【海外の反応】でも「(日本人は)自分たちがこういうことを海外に広めれば広めるほど、東洋人に対するステレオタイプがさらに強くなることがわからないのですか」と、日本人の裸芸の傾向を非難するコメント(原文はハングルによる記載)も実際にありました。
日本人の裸芸に対する寛容さは、たしかに他の国々とは少し異なったレベルなのかもしれません。
それもそのはず、日本の民間には伝統的な「裸芸」が存在し、現代でも半裸で行う「祭り」や「神事」が日本各地にあり、そしてさらにさかのぼると裸芸は日本の「神話」にも登場して非常に重要な役目を果たしています。
「伝統的な裸芸」については、日本には世界の他国と同様にお盆や皿を使って局部を隠して踊り、集いの場を盛り上げる「裸踊り」がありますが、これ以外にも「腹芸」とか「腹踊り」と呼ばれる芸もありますね。
むき出しにしたお腹に顔を描いて踊り、腹部を膨らませたり凹ませたりすることで、その顔の変化で笑いをとる「腹芸」も、庶民のとくにお酒の席では伝統的に楽しまれてきました。
また全国には「裸参り」や「裸祭り」と呼ばれる、男性が「下帯」や「ふんどし」と言われる下着1枚だけで行われる神事や祭りが数多くあり、Wikipediaには80以上の裸祭りが紹介されています。
これらの神事は数百年~千数百年の歴史を持つものもありますが、初めから半裸だったわけではなく「人が密集するので暑い」とか「身を清めた裸体で神事に参加する」などの理由から、徐々に半裸の人間が増えていき、江戸時代の末期に現在の「裸祭り」のスタイルに至ったとも言われています。
このように近世の日本の民間では芸や行事を「裸体化」する傾向が見られたようですが、裸の芸を楽しむという価値観自体の歴史は古く、少なくとも奈良時代(西暦710年~793年)以前にまでさかのぼります。
712年に編纂された日本最古の書である『古事記』の神代巻には、皇室の祖神で太陽神である天照御大神(アマテラスノオオミカミ)が、弟の須佐之男命(スサノオノミコト)の暴虐に怒って天岩戸(アメノイワト)に隠れたため、世界が真っ暗になってしまった事態が伝えられています。
この事態の打開策として、天宇受賣命(アメノウズメノミコト)という女神が岩戸の前に集まった八百万(ヤオヨロズ)の神々の前で上半身裸で踊って大騒ぎし、天照御大神をおびき出すという作戦が立案されました。
外界の騒ぎに「何事か?」と岩戸を開けて覗き見をした天照御大神の腕を、岩戸の脇に隠れて待機していた天手力男神(アメノタヂカラオノカミ)が掴んで引っ張り出す、というこの作戦は見事に成功します。
こうして無事「世の中に太陽が戻った」という話なのですが、これが700年代の日本にすでに「神話」として語り継がれていたことから、この時代よりもずっと以前から裸踊りが「人々の注目を集める宴会芸」であったことは間違いないでしょう。
そしてこの話を聞いた人が、この芸を「世の中を明るくするための神事」ととらえていたとしても不思議ではありません。
こうした「裸」と「神」との古代からの「密接な関係」が背景にあることで、日本人は「裸で行う行事や芸」をかなり肯定的にとらえており、それは現代までしっかり受け継がれてきたのではないでしょうか。
「国の権威者を裸芸で笑わせて世の中を明るくする」というのは、古代日本にその源流を見ることができる正統な「裸芸の行使」であり、とにかく明るい安村(Tonikaku)がこの裸芸をイギリス国王に見せようとしたことは英国民からすると非常識なことかもしれませんが、日本の伝統的な立場からするとむしろ「原点回帰」と讃えられる行動なのかもしれません。
「Tonikaku」が世界で、そして「とにかく明るい安村」が日本国内でも今後も活躍を続け、いつの日か権威者の前でその裸芸を存分に披露し、世の中を明るくしてくれるように祈ってやみません。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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