2023年8月~9月にわたって放送された、米国のリアリティ・オーディション番組『アメリカズ・ゴットタレント(AGT)』で、久々の「ゴールデンブザー」を獲得し、さらに決勝へ進出した日本人グループとして、新潟のダンスチーム「ChibiUnity(チビ・ユニティ)」が話題になりました。
彼らはどのようなダンスチームなのでしょうか?
彼らにゴールデンブザー(GB)を与えた審査員の評価とは?
そして彼らを決勝にまで導いた素晴らしい演技の魅力とは?
若い頃からダンス大好きでアクロバット・パフォーマンスにも長年携わった管理人が、独自の視点でChibiUnityのパフォーマンスの魅力を整理整頓してお伝えしたいと思います。
彼らのルーツと魅力を徹底的に解説していきますね!
日本人ダンスチーム「Chibi Unity(チビ・ユニティ)」とは何者?
ChibiUnityは、「Dance Presentation Unity(国友慎之助代表;以下Unity)」が主宰するダンスチームです。
新潟県新潟市を拠点とするUnityは、ダンスを表現活動だけでなく教育や産業として幅広くとらえ、さらに日本のダンスの技術的優位が世界へ「輸出」することができるとして、他分野との連携を図りながらさまざまな挑戦を行っている事業体です。
ダンスをモチーフとした「映像制作」も行っており、NBC World of Dance 主催の世界映像コンペティションでは優勝の実績もあるようです。
ChibiUnityはそのようなUnityが2017年から地元新潟で育てているダンスチームで、今回のプログラムでは30名ほどの男女のダンサーが演技しています。
他のプログラムもいくつか拝見しましたが、今回のAGTでのプログラムはメッセージ性が強く、「セリフの代わりにダンスで語り、ダンスで叫ぶ」といった作風だと感じました。
モダンダンスとヒップホップがダンススキルの中核だと思いますが、アクロバットの要素は少なく、「個々のダンサーのためのダンススキルの見せ場づくり」のような場面もほぼありません。
独創的なフォーメーションダンスは多々ありますが、それは脈絡なく点在しているのではなく、あくまでひとつのストーリーラインの上に必然的に配置されているという感じで、全体として演劇性とその訴求力の高いパフォーマンスになっていると感じました。
この卓越したプログラムの振り付けは、スペイン出身でコロラド在住のコレオグラファーLarkin Poynton(ラーキン・ポイントン)が担当したということです。
ラーキンはコンペティションの振り付けを数多く手がけ、日本ではダンスのワークショップを開いたこともあるようです。
アメリカズ・ゴットタレント(AGT)出場の概要
2023年、ChibiUnityは世界的に有名なオーディション番組『アメリカズ・ゴットタレント(season18)』に挑戦しました。
以下にその概要を見出しとしてまとめておきます。
2023年8月8日(火)一次予選出場:楽曲『hometown』
〃 9月19日(〃)準決勝出場:楽曲『Renegades』
〃 9月26日(〃)決勝出場:楽曲『We are』
〃 9月27日(〃)結果発表
チビ・ユニティの世界での優勝経験とは?なぜAGTにエントリーしたの?
このようなChibi Unityのダンスは世界でも高く評価されており、NBCのリアリティ番組『 World of Dance』や中国の『Street Dance of China』にも出演しています。
さらに毎年ロサンゼルスで行われているダンスの世界大会『VIBE Dance Competition』ではジュニア部門でなんと3連覇、今年2023年はアダルト部門でも優勝しています!・・・すごいチームなんですね!
そのような世界でもトップクラスのダンスチームが、今回は「ダンス競技会」の枠を飛びだして、さまざまなエンターテイメントの猛者がひしめくAGTにエントリーしたわけです。
これには2022年のAGTに登場した、レバノンの女性ダンスチーム「Mayyas(マイヤズ)」の優勝が大きく影響している、と演技前のインタビューで紹介されていました。
以下は管理人の推測ですが、Mayyasも総勢30数人とChibiUnityに近い規模であり、ストーリー性のある作風でフォーメーションダンスを行うという点でも共通点があります。
・・・こういった共通点は、ChibiUnityに「可能性への期待」や「自信」を与えてくれたのではないでしょうか。
また共通点がある一方で、相違点もあります。
Mayyasは群体の生物がステージを占拠しているような「スポットライトの中心となるもののフォーメーション」を得意としていますが、ChibiUnityはむしろ「舞台装置として機能するようなもののフォーメーション」が得意のように思います。
これにはもちろんラーキンの振り付けが大きく影響しているのですが、スポットライトの中心にいるダンサーの「状況」や「心象」を表現するようなフォーメーションは、むしろ言語的な感じがします。
このような相違点は「過去のダンス(Mayyas)と単純に比較されるリスク」からチームを遠ざけてくれるのではないでしょうか?
・・・以上ような昨年の覇者Mayyasとの共通点や相違点が、ChibiUnityに「挑戦する価値」を感じさせ、その背中を押したのではないかと勝手に推測しています。
Chibi Unityの一次予選に審査員の反応は?そしてゴールデンブザーに至った経緯は?
2023年8月8日(現地日付け)、AGTシーズン18の一次予選でそのパフォーマンスを初披露したChibiUnityですが、審査員の評価はまさに「絶賛」でした。
「YESをいくつ獲得したか」ではなく、審査員4人+司会の合計5人の同意による「グループゴールデンブザー」を獲得したのです。
(ゴールデンブザーなどのルールについては「ゴットタレントって何?」をご参照ください)
ではこのグループGBに至る「経緯」を振り返ってみましょう。
*****ここから講評*****
〇ハウイ・マンデル
今年のシーズン18のダンス部門はずば抜けている。でも君たちはそれをさらに別のレベルにまで引き上げた。
ダンスから湧きあがる感情に心を揺さぶられた。君たちはすべてを満たしたし、本当に素晴らしかった。
スピード感と巧みな動きに我を忘れたよ。ラスベガスで1時間のショーでも見てみたい!
〇ハイディ・クルム
想像以上だった。音楽も予想外。
衣装が変わったのも気に入ったわ!すごくダイナミックだったし、もう最高!」
〇ソフィア・ベルガラ
「私・・・鳥肌が立ったのよ!心臓がバクバク興奮しちゃって。
私が今まで見た中で、最高のダンスだった!
・・・AGTのオーディションで、完璧な出来だったんじゃないかな。
〇サイモン・コーウェル
「このオーディションで私が感じたのは、ただのダンスじゃなかった。
パワフルで独創性が高くて、それは信じられない。驚くべきだよ。
続けて「まさにこの瞬間、我々は同じことを考えていると思う。
・・・そうだよね?(ウィンク)」横の審査員たちと、ステージ上のテリー・クルーズに促します。
我々は本当に気に入ったので、みんなでそろってアレを贈りたいんだ。
*****講評ここまで*****
・・・サイモンのコメントの最中から、会場ではすでにGBコールが始まっています。
彼の呼びかけで実現したのは、5人の審査員・司会者が全員一致で贈る「グループ・ゴールデンブザー」でした。
・・・金色の紙吹雪がまだ落ち切らないうちに誰からともなく全員が膝をつき、会場に向かって座礼をしていたのも日本人らしいですね!
こうしてAGTシーズン18の1次予選で「ゴールデンブザー」がChibiUnityに与えられましたが、盛り上がっていたのは会場だけではありません。
AGTの公式Youtubeチャンネルを見ますと、この6日間で視聴回数は350万回、ネットユーザーから5万1千の「いいね」と3400のコメントが集まっています。・・・すごい反応ですね!
全体として、涙をともなう深い感動を覚えた方、「孤立」や「抑圧」のテーマを感じた方など、かなりエモーショナルな作品だったという評価が多かったようです。
また一方で、アクロバット的な要素をほとんど入れずに構成されたコレオグラフを讃える意見も複数ありました。
・・・これも私は賛成です。
コンペティションとなるとどうしても他の出場者と差別化するために「派手な手段」を選びがちなんですが、そこに目もくれない構成には「さすが!」と感じました。
さらには同じ日本から出場したAvantgardeyと並べて、2つを称賛する書き込みも見られましたね。
・・・両者のタイプはまったく異なりますが、現時点でこの2チームのパフォーマンスが非常に高いレベルであることに異論をはさむ余地はないでしょう。
これも当然だと思います。
Chibi Unityの一次予選ダンスはここがすごい・・・魅力を確認しよう!
私はチビユニティが、AGT2023の優勝候補の一角だと考えていました!
このコーナーではChibiUnityの1次予選のダンスの魅力を再確認し、次のコーナーでは優勝へのハードルについて私見をお話ししようと思います。
まずその魅力の再確認なんですが、ChibiUnityの魅力は、
①コレオグラフの優れたストーリー性
②ストーリーを引き立てるシンプルな衣装と光やシルエットの演出
③「憑依」と表現するのにふさわしい、ダンサーたちの表現力
の3つを挙げたいと思います。
①コレオグラフの優れたストーリー性 についてですが、ネットのコメントでさまざまな捉え方があるように、このダンスを見た人それぞれが思い浮かべる「具体的な出来事」は、それぞれに異なると思います。
しかしその出来事を表現するための「抽象的な言葉」は、おそらく世界共通でかなり似通ったものになるのではないでしょうか。
不安・混乱・対立・孤立・抑圧・解放など、現代社会を生きる我々が今まさに巻き込まれている不安定な状況や心象が、ストーリー的に発現し展開して収束する、抽象性の高い演劇的なダンスだと感じます。
魅力の②についてですが、さらにこの不安定さを強調してくれるのが、モノトーンの衣装と光やシルエットを使ったシンプルな演出でしょう。
色を排除したステージには明暗しかなく、対照性(コントラスト)が強調された空間で、我々は「流されるのか」それとも「抗うのか」の2択を迫られるダンサーに自分自身を投影します。
そしてこの1次予選で使われた楽曲『hometown』の特徴も、一言で言えば「ハイコントラスト(高い対照性)」ではないでしょうか。
2017年に発表されたカナダのロックデュオ「Cleopatrick」によるこの曲はもともと、不確かな自己アイデンティティへの違和感や葛藤を歌っている曲だと思います。
今回のChibiUnityのダンスのために編集されたこの曲の、とくに間奏の部分からは静と動、明と暗、強弱や高低といった対照性がビシビシ伝わってきますので、このダンスのテーマやライティングとこれ以上ないマッチングを見せています。
おそらくコレオグラフを練る段階で、振付師のラーキン・ポイントンはこの楽曲からかなり多くのインスピレーションを得ていたのではないでしょうか。
そして魅力の③ですが、このダンスのテーマを言葉を使わない「全身表現」にして世界に訴えているChibiUnityのダンサーたちの表現力は、まさに「憑依」されているとしか言いようがありません。
我々が時代の波に飲み込まれ、自覚できずに大勢が同じ危ない方向を向く、危険な「共振」や「共鳴」のような状況が歴史には多々あります。
この自覚できない危機も、おそらくこのダンスのテーマに組み込まれているのではないでしょうか。
この「危険な共振・共鳴」は、実際の時間軸では「伝搬」あるいは「浸透」のようなスピードで起こるのでしょうが、同じ現象をステージ上の数分間という時間に再現すると、それは「憑依」という現象に転換します。
ステージ上のダンサーは体格も性別も異なる者たちですが、同じ服を着て、いつの間にか同じ動きをし、気がつけば対立や疎外を生む当事者として状況に「流されて」いく様子が描かれます。
このような状況や心象の変化は、ダンサーの身体が「同じポーズ」や「同じポジション」をとるという「外面的なシンクロ感」を通して伝えられているのでしょうか?
いえ、このChibiUnityのダンスではむしろ「同じ反応が」「同じテンションで」起こっているかのような「内面的なシンクロ感」が伝わってきます。
このような彼らのダンスの出来に、私は感動とともに「憑依」という感覚を憶えてしまいます。
ここまでに挙げたようなChibiUnityの魅力は、言語的でありながら言語そのものは必要とせず、世界の誰にでも認められる「舞台芸術」そのものであり、AGTの舞台でも多くの人々を感動させ、共感を得る力が間違いなく高いと思います。
チビ・ユニティの準決勝はどうなる?
さてこの準決勝、ChibiUnityは通過できるのでしょうか・・・?
準決勝出場の当週11組から決勝への2組が選抜されるのですが、アプリによる視聴者投票がその週の「1位通過チーム」を決定します。
ここには審査員やプロデューサーの判断は入りません。
「2位通過チーム」には、視聴者投票2位と3位のチームから、審査員の判断でどちらかのチームが選抜されます。
(この他に全体から1名の「ワイルドカード枠」がありますが、詳細は「ゴットタレントって何?」をご覧ください)
私個人としては、ChibiUnityは決勝に残るだけの力が十二分にあると感じています。
それはもちろん先ほどお話したとおり、世界からの共感を得られる「言語を越えた①②③の魅力」を備えているからです。
ただこのAGTにはダンスチーム以外の出場者がたくさんおり、その中でも歌唱の魅力は非常に訴求力の強いものだと言えるでしょう。
壮観なチームパフォーマンスをたった一人の歌唱力が上回ることも十分にあり得るのが、ゴットタレントであり視聴者投票なのです。ChibiUnity側にできるのは、彼らの全力を出し切ることだけです。
その点で私が唯一心配しているのが、コレオグラフやダンサーの出来ではなく、準決勝の「舞台装置」です。
通常、一次予選では何の舞台装置もないところでパフォーマーは演技をしますが、準決勝ではそれなりに華やかな舞台装置が付加されてくることが普通です。
ところが、これまでの準決勝を見ているとその華やかな舞台装置が裏目に出ている出場者もいるんですね。
派手な照明やスモーク、ラメ付きの衣装などのせいで肝心のパフォーマンスがかすんで見えることがこれまでにもありました。
おそらくAGTにもNBC側の舞台監督がいて、華やかなTV画面作りについて出場パフォーマーと打ち合わせのうえでやっていることだとは思います。
しかし、ことChibiUnityに関しては彼らなりの優れた演出ノウハウがありますので、ChibiUnityの舞台担当者に一任してほしいなと思います。
TVのライブショーとしての見映えどうこうということではなく、ChibiUnityがその良さの全部を発揮できるように・・・。
準決勝の演技に審査員の反応は?
現地日付け9月12日(火)に行われたChibiUnityの準決勝の演技に対して、4人の審査員は全員非常によい印象を持ったようです。
まずは審査員の講評です。
*****以下講評*****
〇ハイディ・クルム
よくやった!あなた方は私たちのゴールデンブザーであり、期待を裏切らなかった。
シンクロニシティの中で、私たちにたくさんの特別な瞬間を与えてくれたよ。全員の息が合っていて素晴らしかった。
そして、私が一番好きだったのは、背中の上を歩いているときだった。
あんなの初めて見たよ……信じられない。
みんながシンクロしていて素晴らしかった。本当によくやった、ありがとう!
〇ソフィア・ベルガラ
息をのむような美しさ……つまり、あなた方のパフォーマンスを何時間でも見ていられるんだよ。
驚くほど魅力的で芸術的。
あなた方がこれにどれだけ力と情熱を注いだかがわかる。
今晩、このAGTに来てくれて本当にハッピーだよ、ありがとう!
〇サイモン・コーウェル
あのマイヤーズは、多くのダンサーが踊るステージへの見方を決定的に変えてくれたし、さらなる創造性を目の当たりにして、私はとても幸せだ。
まるでNIKEのコマーシャルか何かを見ているようだった。
君たちはとてもスタイリッシュで、曲のチョイスも素晴らしかった。
君たちが本当に好きだし、今年見たベストアクトの一つだよ!
〇ハウイ・マンデル
今夜のベスト・アクトの筆頭だった。英語では「ワオ!」としか言いようがないんだ。
日本語だったらこの「ワオ!」は何て言う?
(これにChibiUnityのBuntaが答えます)
Bunta「ヤバイ」です、「YABAI!」。
ハウイ、両手を挙げて「ヤッ・・・バーイ!!」
*****講評ここまで*****
・・・審査員にも高い評価を受け、視聴者投票でも高得点を獲得して決勝に進んだようです。
良かったですね!
AGTの公式サイトにアップされたChibi Unityの準決勝の演技には、5日間で57万回の視聴回数と、743件のコメントが寄せられています。
今回も「鳥肌」や「涙」という、感動が伝わっていることを示す讃辞がたくさん見られましたし、またOne OK Rockの楽曲『Renegades』を喜ぶ声もたくさんありました。
抑圧・友情・勝利などのメッセージを感じ取った方もたくさんいたようです。
私もこのダンスについて、以下に少し整理してみたいと思います。
準決勝ここがすごかった!・・・そしてケガは?
この準決勝のパフォーマンスは、白と赤という日本の国旗がイメージされるカラーリングが非常に印象的でした。
また楽曲は、日本を代表するロックバンドのひとつであるOne OK Rockがエド・シーランとの共作で2021年にリリースした『Renegades』が使われました。
この曲は映画『るろうに剣心 最終章 The Final』のために書き下ろされたものです。
歌詞の内容を短くまとめると「自分たちは抑圧され続けているけど、このままでいるわけではない。現状を打破するための『裏切り者』になれるんだ」という「自分の決意」や「周囲への檄(げき)」を歌ったものです。
1次予選のダンスのテーマが「混乱」「対立」「抑圧」「解放」のような感じでしたから、まさにその「第二章」と呼ぶべき内容ですね。
このカラーリングと楽曲によって、かなり強く「日本」の要素が入りました。
しかしパフォーマンスそのものにはそれほど日本的な雰囲気はなく、それよりも「視覚的な美しさ」や「センスのよさ」が目立っており、日本の印象を押し付けるような作り方ではまったくなかったと思います。
また予選のダンスで見られた「強いメッセージ性」は今回も健在でしたね!
しかしその内容は前回にくらべて「抑圧」や「対立」そのものよりも、それに対峙する数名の個人が、周囲の協力によって「現実に逆行し、現状を打ち破っていくイメージ」が各場面で見られたような気がします。
赤い旗には「理想」「障壁」「成果」などのいくつかの役割が与えられ、白い衣装との強いコントラストは、そのまま「強い意志」の存在を感じさせます。
各ダンサーが手にした小さな白い光は、その「強い意志」を内面で支える「希望あるいは何か」のように私には思えました。
この小さな白い光は、大きな赤い旗が表す「動的な感情」に対して「静的な感情」の存在を連想させ、このダンスの感情表現に深い奥行きを持たせることに成功したと思います。
このような「意思」や「感情」の表現に、ワンオクの楽曲『Renegades』はもはや「このダンスのために組まれた舞台」として機能していたかもしれません。
少しずつ沸騰する不満や衝動、膨張する内面、解放される叫び、そんな自分たちを冷静に俯瞰する視点など・・・音がまるでステージに組まれた起伏や明滅する照明のように、ダンサーたちの存在を浮かび上がらせていたように私は感じました。
今回も非常に感情を揺さぶるコレオグラフと演出でしたし、またダンサーたちも前回と同様「フォーム」や「ポジション」でのシンクロというよりも「テンション」でのシンクロが伝わってくる演技だったのではないでしょうか。
さて今回のプログラムでは前回よりも「突出した個人」が表現されていたと思いますが、そのために少々アクロバティックな動きがありました。
背中の上を渡る、振り回された旗をとび越えて前転する、そして掲げられた旗を飛び越えて登場する・・・という難しい動きの中で、今回はケガが発生しています。
掲げられた旗を飛び越えて登場するシーンで、飛んだダンサーの右足に掲げた旗がひっかかり、その着地で膝を怪我したとのことです。
私はアクロバットの経験があるので、彼が旗を飛び越したときに「無茶な高さから着地するなぁ。ケガしなきゃいいな」と思っていました。
あの高さからの着地は、舞台芸術でも競技スポーツでも、固いフロアで行うべきではありません(着地に失敗すれば多少の着地マットがあってもケガは起こりますが)。
とくにプロの舞台の場合は「昼夜2公演」は普通ですので、公演あるいは競技を連日で継続する場合には、排除すべきリスクかと思います。
推測ですが、このシーンでは旗を飛び越えた直後に旗がさらに高く上がり、空中で白い服のダンサーの背景が「赤一色になる」というビジュアルを狙った演出だったのではないでしょうか?
負傷したダンサーの方は最後まで踊ったようですが、膝のケガであればダメージは相当大きいはずです。
詳しい情報がないので何とも言えませんが、膝の故障であれば通常、彼が2週間後の決勝への出場するのは難しいかもしれません。
ケガが少しでも早く回復しますように、今はよく休んでくださいね。
これだけのパフォーマンスをするために、もちろん練習でもケガは発生しているかと思いますし、本戦直前でケガ人が出ることもChibiUnityはすでに経験しているのかもしれません。
このピンチをチャンスに変えてくれることを期待して、皆で決勝まで応援を続けましょう!
そして将来のプログラムでは、高く飛んだ彼の着地を数人のダンサーが補助して安全を確保し、同時に「協力」「協調」を表現するようなコレオグラフなどに改良してもらえたらいいんじゃないかと思います。
ChibiUnityが決勝で演技しました!・・・審査員の声など
ChibiUnityがついにAGT2023の決勝に登場、現地日付けで9月26日(火)、日本時間では翌9月27日(水)に演技が行われました!
この決勝の演技に対する審査員のコメントはおおむね良かったのですが、やや否定的な意見もありました。
まずは審査員の講評です!
*****以下講評*****
〇サイモン・コーウェル
何年もの間、僕たちは……僕はここに座ってダンスグループを審査していたんだ。
そして今、私たちが言ったように、ダンスですべてが変わった。
若くて才能があり、信じられないような方法で自分自身を表現している人々を目の当たりにしている。
私にとっては、この夜のベストパフォーマンスだった。
〇ハイディ・クルム
そう、あなたたちのルーティンには多くのリスクがあることはわかるよ。
そして、それが実を結んだんだと思う。
つまり、うまくいかないことはたくさんあるし、そうならないこともあるよね。
リハーサルや練習を重ねることで、今日までよく頑張ったと思う。グッドラック!
〇ソフィア・ベルガラ
ハードワークと情熱、そしてこのステージでいつもと違うことをする楽しさがすべてなんだよ。
そうそう、そしてユニークな・・・壮観だよ。
君たちはベガスにふさわしいし、君たちは優勝にふさわしい!
〇ハウイ・マンデル
私はそれほどユニークだとは思わなかった。
君たちは本当に素晴らしいと思う。
よくて「平凡」だが、アーロン・ロジャースを復帰させたね。
今は違うグループになっているから、すごいとは思わなかったよ。
*****講評ここまで*****
さっそく「空気を読まないハウイのコメント」が登場しましたね!
彼は周囲に同調せず、自分が感じたとおり、いつもの自分のままにコメントします。
そのためこういった講評の直後には、動画のコメント欄に「ハウイはもう引退して」などという批判のコメントがたくさん見られるようになるんですが、今回は彼に賛同する声もかなり多かったと思います。
他の審査員の講評を見ると、ソフィアだけは「ベガスにふさわしい」とコメントしていますが、サイモンもハイディも「これまでの総論」という形で締めています。
準決勝のときの「ナイキのコマーシャルみたいだ!」のような、具体的に演技自体を評価するコメントはありませんでしたね。
私も今回の演技は、これまでに比べてメッセージの輪郭がちょっとぼやけているというか、焦点が散漫な感じがしました。
おそらくコレオグラファーはラーキンではなかったのでしょう。
楽曲はONE OK ROCKが2017年にリリースした『We are』でした。
曲としては、現実に追い詰められた若者(自分たち)の不安や怯えに対して共感し、孤独ではないことや自分の力を信じることを訴える内容ではないでしょうか。
歌詞からすると「特定のベクトル(方向)やストーリー」を持っているというよりは、「行き先を見失った『今』をスタート地点とする」というような「瞬間」や「決意」に焦点が置かれているという感じが強い楽曲です。
そのためダンスのコレオグラフもその「瞬間」を描いてしまい、その先の「プロセス」を描けなかったためストーリ性を持たせづらかったのかもしれません。
これに対して一次予選では「受難のプロセス」が、準決勝では「打開のプロセス」がテーマにできたため、ストーリー性を持たせやすかったのではないでしょうか。
またChibiUnityが得意とする「光と影」をうまく使った演出もありませんでしたし、小道具や衣装替えも今回のプログラムにはありませんでした。
1次予選が「ダンスで語る演劇」、準決勝が「ビジュアルアートとダンスの融合」のような印象だったのに対して、今回は「エピローグとしての全員ダンス」に終わっていたような気がします。
もしかすると、準決勝のときのダンサーのケガによって不可能になったダンスパートもあったのかもしれませんが、好評を博したさまざまな演出まで無かったとなると、今回は単に「準備していた手持ちのコマを使い切った」ということなのかもしれません。
私個人としてはChibiUnityを「優勝候補の一角」と考えていましたので、このアクトは正直物足りない感じがしました。
また決勝の演技を観て再認識したのは、彼らのような演劇型のダンスにおいて「アクロバットの果たす役割は非常に限定されている」ということです。
1次予選と準決勝のプログラムでは、抽象的なストーリーの中でしたが、アクロバティックな技や小道具が、そのシーンで果たす「役割」がはっきりと伝わってきましたので、それらの登場が「必然」と感じられました。
しかしこの決勝のプログラムではストーリーがあまりはっきりと感じられなかったので、アクロバティックな技の「役割」も示せず「必然性」も曖昧なままだったのではないでしょうか。
そのため、旧来のヒップホップやブレイクダンスにありがちな「こんな技ができるんだよ!」というアピールに終わっていたような気がします。
役割を失ったアクロバットというものは、単に「難しさ」という1次元の直線上に置かれてしまうんですね。
1回転より2回転、2回転より3回転が評価されるだけで、3回転を見た後に1回転を見てももちろん感動などありません。
準決勝で「背中の上をひとりで渡りきる技」を見た後ですから、決勝の「補助付きで体を横にして、背中を渡る技」を見ても「まぁ、それもおもしろいアイディアかもね」という程度にしか思えなくなります。
もしこれが、あるストーリーの中であるシーンを表現する役割をきちんと伝えられていたなら、全く違うものに見えたのではないでしょうか。
AGT2023グランドファイナル!その結果は・・・
さて決勝の翌日、現地日付け9月27日(水)のグランドファイナルで、昨夜一晩の視聴者投票の結果が発表されました。
ChibiUnityは残念ながらTOP5には残れませんでしたが、“AGTファイナリスト”にその名を刻みました。
発表の流れをざっくりお伝えしますね。
AGTのグランドファイナルでは、まず「TOP5の発表」となり、ステージ上に全11組が集められます。
その場で11組の中から2組ずつ(最後だけは3組)が呼ばれて前に並び立ち「どちらのチームがTOP5に残るか」が、司会のテリー・クルーズから次々と発表されます。
この時点で6組が敗退し「TOP5」が残る、という段取りです。
次にこのTOP5から1組ずつが順番に「5位で敗退」「4位で敗退」「3位で敗退」と宣言されて次々とステージを去ります。
最後に、ステージに残った2組の一方に「優勝」が宣言され、他方に2位が宣言されます。
ChibiUnityはこの「TOP5発表」の2番目に呼ばれ、優勝最右翼と目されていたプトリ・アリアーニ(インドネシア)と並び立ち、その直後にプトリの通過が宣言され、ChibiUnityは敗退を宣言されました。
ちなみに日本から決勝に残ったアバンギャルディも、この「TOP5発表」のラスト3組の中で敗退を宣言されています。
こうしてChibiUnityのAGTへの挑戦は終わりました。
5位以内には入りませんでしたが、1次予選で審査員たちを「グループ・ゴールデンブザー」に追い込んだダンスの説得力や、準決勝でサイモンに「ナイキのコマーシャルを観ているようだった」と言わせたクールな演出は、ChibiUnityと彼らを支えるスタッフが持っている「才能」や「可能性」を十分に感じさせるものでした。
世界にその名が知られたことで彼らの活躍する舞台は、これまでと少し違う広がりを見せてくると思います。
世界中に鮮やかなインパクトを残し、日本には大きな希望を持たせてくれたChibiUnity。
これからも応援していきますので、どんどん活躍してくださいね!
最後になりますが今年のAGTシーズン18は、ハウイのいうとおりダンスレベルが非常に高いシーズンでした。
・・・でも今のAGTの審査員にはダンサー出身者がいないんですよね。
BGTにはブルーノとアリーシャという2人のダンサーがいるんですから、準決勝から誰かと交代してくれたら良かったのに(笑)。
・・・せめてブルーノのChibiUnityへの講評を聞いてみたいです!
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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