2023年に行われたAGT(アメリカズ・ゴットタレント)で決勝まで進んで大活躍した、日本のダンスグループ「アバンギャルディ」。
(彼女たちのAGTでの活躍は「アバンギャルディって何者?魅力を総まとめ!」でどうぞ)
彼女たちのダンスをアップしたAGTの公式Youtubeのコメント欄には「もう30回は見ています」「80回以上見ました」「こんなにダンスを繰り返し見たのは、生まれて初めてです」「見るのが止められません。助けてください!」などと、熱いメッセージがたくさん寄せられていました。
アバンギャルディのダンスの何が視聴者の目をクギ付けにしたのでしょうか?
「見どころ満載」で整理のつかないこのスーパーパフォーマンスの魅力を、少しでもかみ砕いて紹介させていただきたいと考えました。
そこで今回は、彼女たちのダンスの中から、数人がかりで行う「大技」や、「おっ!?」と驚く「力技」に着目して、いくつかの振り付けをご紹介します。
長年アクロバット・パフォーマンスに携わり、その動作を1コマ1コマ図に描いてきた管理人が独断と偏見で7つのパートを選び、イラストで解説させていただきますのでご覧ください。
なお各技にはセンスのかけらもない「仮称」がつけられていますので、不快になった方には申し訳ありませんが、聞かなかったことにしてくださいね(汗)。
「クスっと笑える振付7選」と「ユニゾンの振付」もまとめてありますので、どうぞ!
さて、あなたはどの振り付けに驚きましたか?
オープニングの大技「リフト&キック」(シンデレラ・ハネムーン)
イントロの前半から後半に向かう部分、曲調がこの先の大きな展開を感じさせるところで行われるリフト技です。
①スタート部分での「花」を連想させる放射状のフォーメーションの一部をブレイクして(②)、正面に向かい「高さ」をアピールしていますね!(③)
この場面では、リフトされている方を「センター」と言っておきましょう。
動画ではわかりづらいのですが、センターの腕を下から支える2名の他に、真後ろから1名がセンターの腰を両手で支えています(②)。
空中では両脚を時計の針のように大きく回すキックをしていますが、下のダンサーたちが振り上げた脚の高さも非常に高い位置にありますので、これも動画で確認してみてください。
・・・これから始まる非凡なダンスの「予告編」といった雰囲気ですね!
ギャップが笑える力技「裏ジャイアントスイング」(シンデレラ・ハネムーン/Money,Money,Money)
この技はステージ中央ではなく、ステージの両サイドで行われています。
シンデレラ・ハネムーンでは中盤の見せ場「脱皮のカノン(仮称)」の両脇で4組が行っていますし、Money,Money,Moneyでも中盤、移調して半音上がったところでやはり4組が行なっています。
相手の両脚を自分の脇に抱えてグルグルと回転する力技で、おそらくプロレスの技をヒントにしたのではないでしょうか?
ここで「裏ジャイアントスイング」とわざわざ「裏」という言葉を名前に付け足したのは、本来プロレスで行われていたジャイアントスイング②’③’とは、リフトされる側の体の向きが逆だからなのですが、お気づきになりましたか?
プロレスではリフトされる側の体の前面(表)が天井を向いているのに対し、ここで行われている技では背中(裏)が天井を向いているので「裏」というわけです。
プロレスでは②’相手を振り回したのちに放り出し、③’背中からマットに叩きつけてダメージを与えますが、アバンギャルディのダンスでは③のようにリフトされる側は両手を安全に床に着いて技を終えることができるため、次の振り付けにスムーズに移ることが可能です。
このパートの見どころは、歌詞の「肩でもいいわ~」と彼氏にお願いしている様子を①の女性らしいポーズで表現した直後、いきなりプロレス技もどきのジャイアントスイング②が始まるという「ギャップ」にあると言えるでしょう。
しかしその回転の最中にも、リフトされている方が両腕を体側にピタッと着けているあたりに「ダンス表現へのこだわり」が感じられますね!
技の本体②はもちろん見応えあるのですが、私個人はその入り方①が非常に工夫されていると感じました。
残念ながら動画画面には映っていませんが、おそらく2人が前後に並んだ状態から1モーションでこの姿勢に入っていると思います。
我々視聴者が気付いたころには、次の振り付けに移っている「素早さ」や「よどみなさ」は、アバンギャルディならではの「優れた構成」と「資質×練習量」の賜物ですね!
2階建てダンス 2種類の振り付け
平たく言いますと「おんぶ」と「肩車」なんですが、なにせそのクオリティが高いんです!
①②の「おんぶ」は準決勝で行われたアイドルの「♪遊びに行くなら」の部分で行われています。
普通のおんぶは①’のような高さなんですが、アバンギャルディの行うおんぶ①は高さがちがいます。
上の人が下の人の肩を台にして跳びのり、両脚で下の人の胴体をはさんでいるように見えます。
上の人の両脚がほぼ伸びているのがおわかりになりますか?
下の人はその伸びた両脚を、両腕でしっかりホールドしているようです。
これによって上の人は②のように両手を離すことが容易になるんですね!
③④⑤の「肩車」は、Money,Money,MoneyのAメロ「 I work all night~」から,「Ain’t it sad?」の部分で行われています。
肩車の場合、完成形そのものは変わりませんが、入り方が素早くそしてちょっと変わっています。
ふつう下の人はしゃがんだときに、上の人の両脚を肩の上で抱きかかえるようにして立ち上がりますが、アバンギャルディの場合は上の人が下の人の肩か背中に手を回して自分の姿勢をサポートし、下の人は両手を自分の膝に乗せているように見えます(③)。
おそらく下の人は自分の両腕で、自分の背中の前傾を直立へと押し上げられるように支えているんじゃないかと思います。 このような重量の負担の工夫によって、④⑤とすばやく立ち上がることが可能になっているのではないでしょうか?
一見普通に見える「おんぶ」や「肩車」でも、楽曲のテンポやスピードに合わせるため「独自の工夫」がされていることに驚きますよね!
AGTも注目?「一番星!」(アイドル)
この振り付けは英語歌詞の部分「The brightest ~」から「~ residing in you」の「star」で①のフォーメーションが作られます。
センターの「一番星」の両脇を固める家紋の「三菱」のような形は、「二番星」と「三番星」ってことにしておきましょう(笑)。
続いて次の「residing」で②の軽いヘッドバンギングのような動作が行われており、ちょっと星が「キラッ!」っと光る感じになっていますね。
このときおそらく両サイドの二番星・三番星も同じことをやっているんじゃないかと推測しますが、画面には映っておらず確認できませんでしたので、ここではスルーします。
この振り付けはもちろん歌詞の「star」を反映したものですし、アメリカズ・ゴットタレントのマークの星も当然意識しているでしょう。
歌詞の反映と運営側の気持ちをくすぐる「一石二鳥」の心憎い振り付けです。
審査員も視聴者も「おお、なるほど!」と思ったでしょうね!
世界が驚いた「袖フラッシュ」の振付(シンデレラ・ハネムーン/アイドル)
シンデレラ・ハネムーンでは「重いため息ついている〜」の後の間奏で行われていますし、アイドルでは「ああ、その笑顔で」の「で」のところで行われています。
ただ印象としてはシンデレラ・ハネムーンで行われたものの方が圧倒的に印象を強く残せているので、そちらで解説しますね。
上記の歌詞を受けて、直前では「バイオリントリオ」の振り付けの3名以外は①全員うなだれて両腕を下ろしていますが、トランペット(?)の音に合わせて②瞬間的に全員が両腕を放射状に伸ばし、③すぐに引っ込めています。
白い袖(そで)が広がってすぐ消える様子が、まるで光るように見えたので「袖フラッシュ」と仮称しました。
これはかなり視覚的に強烈な印象だったようで、審査員や観客から「Wao!」と大きな歓声が上がっていますね!
この後にも同じようなフラッシュが2度繰り返されるのですが、この1度目のフラッシュがやはり意外性があってインパクトが強く残ります。
これはフラッシュそのものの出来栄えではなく「前後の動き」が大きく影響しているようで、2回目や3回目のフラッシュでは前後ですでに袖の目立つ振り付けが行われているため、強い印象には結びついていません。
さらにアイドルのときは、そもそも衣装が明るめのパープルなので白い袖の動きが目立たないうえに、前後の動きも袖が目立つ振り付けなため、一層その印象は薄くなっています。
とはいえ、やり方によっては白い袖を広げてみせただけでこれだけのインパクトを残せるのですから、今後もこの袖の印象を使った振り付けをどんどん開発してほしいですね!
ダンスでは難しい「トラストフォール」(アイドル)
この大技は、英語歌詞の部分「The brightest ~」の最後「in you」のところ、つまり前述の技「一番星!」の直後に、すぐ背後のセンターで行われています。
トラストフォール自体は背中側にいる「仲間」に向かって倒れるアクションですが、元々は相手との信頼関係を築いたり、ときには信頼関係の修復を助けたりするための心理的なプログラムのひとつです。
しかし日本ではこれが運動会の「組体操」に応用され、倒れ込んだ人を逆に立たせるアクションまで加えて「人間起こし」の名前で普及しました。
その結果、多くのケガが起きていて「危険性」が指摘されていますww
私はアクロバット経験のある者として、このようなアクションは専門家の指導のもと、きちんと安全が管理された環境で行うべきですし、十分な練習時間のとれない運動会などで行うべきではないと考えます。
ですので、このサイトを見た誰かが見よう見まねで行うことがないよう、リフトの方法や受け手側の構えなどに関する描写は伏せることにし、モザイクで表現することにしました。
このようにリスクの高いアクションを、さらに音楽に合わせて行うこと、つまり安全確保への準備に時間制限を設けて行うことが、どれだけ困難で危険なことかは想像できるかと思います。
・・・アバンギャルディのマネをしてみたい気持ちはよくわかりますが、この技だけはマネしないでくださいね。
世界が魅了された「脱皮のカノン」(シンデレラ・ハネムーン/アイドル)
「カノン」はダンスの用語としては「同じ振り付けが複数のメンバーによって、少しずつカウント(タイミング)をずらしながら行われること」を意味します。
このカノンと対照的なのが「ユニゾン」で「同じ振り付けが複数のメンバーによって、同じカウント(タイミング)で行われること」を意味します。
さて、この技は「しっかり抱いてよ〜」のロングトーンの部分で行われる、シンデレラ・ハネムーンの「最大の見せ場」と言ってもいいでしょう。
アイドルでは「そんなコ・ト・バに」の部分で、ひとりだけはじき出される形にアレンジされていますね。
カノンは隊列を組んだうえで割と単純なモーションをずらして行うことが多いものですが、ここで行われているカノンは「後ろのダンサーが作った腕の輪を下に向かってすり抜けていく」というけっこう複雑なモーションなので、これを「カノン」と呼ぶことには違和感のある方もいらっしゃるかもしれませんが、今回はご海容ください。
①「♪ し~っか(り)」では訴えかける切ないポーズ。
②「♪ (り)抱いて」でのストップモーション。
「連続脱皮」全体が鮮やかに見えるのは、この②でのストップモーションがかなり効いていると思います。
③「♪ (抱いて)よ~」から脱皮のスタート!
BGMの音に合わせて、後ろのメンバーが腰に回した腕の輪から、前のメンバーが次々と下へ抜けていく様子、③④⑤⑥の繰り返しは壮観ですね!
私は昆虫などが次々と羽化や脱皮をする様子が早回しになったような印象を持ったので「脱皮」と形容しました(笑)。
そして私がもっとも魅了されたのは、⑦での列の最後尾のペアによる手をつないで後ろに反り返ったポーズです!
この振り付けはタイミングも顔の角度もバッチリ決まっていて、永遠に続きそうなこの技に「完成」「完了」のイメージを与えてくれます。
②でのストップモーションといい、⑦でのポーズといい、「静」と「動の繰り返し」のコントラストが巧みに組み合わされていますね。
「脳が最高に気持ちよくなるカノン」と呼ばせてください!(笑)
まとめ
アバンギャルディがAGTで披露したダンスの中から「大技」「力技」を抜粋してみましたが、いかがでしたでしょうか?
こうして見てみますと、とくにシンデレラ・ハネムーンには見応えのある大技がたくさん含まれているようです。
そして技そのものの見応えもさることながら、これらの技がスムーズに行われるための準備や後始末、あるいは印象良く見せるための前後関係なども観察すると、アバンギャルディの演技構成がいかに優れたものであるかが一層よくわかると思います。
彼女たちのダンス動画を何度も見ることをやめられなかった皆様!
このページを読んで、もう一度動画を見てみましょう。
新たな味わいが楽しめるかもしれません。
そんな「反芻(はんすう)」のお役に立てたら幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
コメント
キー太郎 様
アバンギャルディを推しているものです。関連の記事すべて拝読させていただきました。
動きの分析、解説絵、技ネーミング 楽しかったですし、読みやすかったです。
今は新作もあったり、活動の場所も広がったりしていますので、機会がありましたらご紹介してください。よろしくお願いいたします。
コメントありがとうございます。
楽しんで読んでいただけたと伺って、私も嬉しいです。
横目でチラチラと彼女たちの活躍は見ていたのですが、ちょっと時間が足りず、手がついておりません( TДT)
また機会をみてアバンギャルディの記事を書きたいと思っていますので、その節はよろしくお願いいたします!