一糸乱れぬ驚愕のシンクロと、次々に変わる万華鏡のようなフォーメーション。
高密度のコマ数の動きの中にも、思わず笑っちゃうコミカルな振り付けと顔芸。
そして観客を引き込む、独創的でフォーカスの強いムーブメント。
世界最高峰のオーディション番組『アメリカズ・ゴット・タレント』で決勝まで進出した日本人ダンスグループ「アバンギャルディ」は、世界中の注目を集めました。
彼女たちのダンスは不思議な魅力がてんこ盛りで、なかなか整理しきれませんよね!?
若い頃からダンス大好きでアクロバット・パフォーマンスにも長年携わった管理人が、独自の視点で彼女たちのパフォーマンスの魅力を整理整頓してお伝えしたいと思います。
彼女たちの「ルーツ」と「魅力」に迫ります!
- アバンギャルディの振り付けって何がいいの?
- 日本人ダンスグループ「アバンギャルディ」って何者?
- 振付師「アカネ」とは?
- アメリカズ・ゴットタレント(AGT)出場の概要
- 1次予選の結果と審査員の反応・ネットの反応は?
- アバンギャルディのダンス、ここがすごい!
- 1次予選の楽曲、シンデレラ・ハネムーンとコロッケについて
- 準決勝の結果と審査員の反応は?
- 準決勝の楽曲「アイドル」はどうだったのか?・・・年代間の温度差は?
- ワイルドカードで決勝進出!ハウイの推薦はなぜ?
- 敗者復活!・・・視聴者投票でのアバンギャルディへの期待とは?
- アバンギャルディが決勝で演技しました!
- グランドファイナルで結果発表!・・・視聴者投票の行方は?
- AGT決勝直前のアバンギャルディが遭遇したアクシデント!『Money,Money,Money』をめぐる“使用権利”の問題とは?
- 「音がとれない」ことで、実際に準決勝『アイドル』ではミスが出ていた!
- 決勝のステージの背景、はじめはリビングだった!?
- 1次予選の楽曲「シンデレラ・ハネムーン」の「1.14倍速バージョン」が配信開始!
- アバンギャルディはAGTの歴史に「前代未聞」を作りました!
アバンギャルディの振り付けって何がいいの?
彼女たちのダンスをアップしたAGTの公式Youtubeのコメント欄には「もう30回以上見ています」「たぶん80回は見たと思います」「見るのが止められません!助けてください!」などのリピーターの声が殺到しています。
なぜ彼女たちのダンスは、これほどまでに人の眼をクギ付けにするのでしょうか?
内容が濃すぎて整理しきれない、アバンギャルディのダンスの魅力を「少しでも整理してお伝えしたい」と考え、彼女たちの振り付けをいくつか抜粋してイラストにしてみました。
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これらをひととおり読んでから、もう一度彼女たちのダンスを見てみましょう。
今まで見えなかった「何か」が見えるかもしれませんよ!
日本人ダンスグループ「アバンギャルディ」って何者?
アバンギャルディは2022年に結成されたダンスグループです。
現在のところダンサーは女性のみの約20名で構成されています。
グループ名の元になっている「アバンギャルド」とは、「前線」を護衛する「精鋭」に由来するフランス語で、一般的には「前衛的」と訳されます。
・・・つまり「アバンギャルディ」という名前は、おそらく「ダンスの世界で進化を続ける『表現の最前線』に切り込むダンスグループ」みたいな存在になることを願ってつけられたのではないでしょうか。
アバンギャルディのルーツは2015年に立ち上げられた「アカネキカク」という、振付師(コレオグラファー)の「akane」さんが率いるダンスカンパニーです!
さらにこの「アカネキカク」や「akane」さんのルーツはといいますと・・・
2017年にYoutubeで再生回数1億回を記録して社会現象になったとも言える、そう、あの「バブリーダンス」で有名になった大阪府立「登美丘高校ダンス部」にあります。
akaneさんご本人については次のコーナーでご紹介しますが、akaneさんは2015年、母校登美丘の高校生たちの部活動を指導しながらダンスカンパニー「アカネキカク」を立ち上げます。
そこから数年後、さらに2022年のダンスNo.1決定戦『THE DANCE DAY』(日テレ系)に出場するために選抜されたのが「アバンギャルディ」の約20名です。
アバンギャルディのメンバー選抜についてakaneさんは「面白いと思える感覚が似ているかどうか」「表情での表現が豊か」「恥ずかしがらずに面白いことを追求でき、人前でそれを出し切れる」「自己プロデュース能力がある」などの観点を挙げていました。
単に「ダンスが上手い」だけではなく「面白さ」や「表現者としての在り方」などへのこだわりが、アバンギャルディのメンバーには要求されているんですね!
・・・ちなみにトレードマークのひとつである「おかっぱ頭」は、全員「ヅラ(かつら)」なのだそうです。
振付師「アカネ」とは?
さてそんなアバンギャルディを統括するのが振付師のakaneさんです。ここからはakaneさんの経歴を見てみましょう。
akaneさんのフルネームは宮崎朱音(みやざきあかね)です。
1992年、だんじりで有名な大阪府岸和田市に生まれました。
3歳からダンススクールに通い、保育園のときにはすでにお遊戯の振り付けをおこなったそうです(もうここから非凡ですね)。
中学生のときにはダンス部を創設し、大阪府立登美丘高校在学中にはダンス同好会を正式な「部」に昇格させています(情熱ハンパないですね)。
・・・このときは2年生で部長を務めたとか。
高校卒業後は日本女子体育大学に進学し、体育学部運動科学科で舞踊学を専攻するのですが、この大学2年在学中に、後輩からお願いされて母校登美丘高校ダンス部の臨時コーチを務めます。
大学卒業後はプロの振付師として活躍する傍ら、2015年・2016年と登美丘高校ダンス部を「日本高校ダンス部選手権」の連覇に導きました。
そして2017年には優勝こそ逃したものの、そのときのプログラムである「バブリーダンス」が脚光を浴び、日本レコード大賞やNHK紅白歌合戦にも出演します!
TVCMなどへの振り付けも多数行っていますが、私がとくに印象に強かったのは2018年、映画『グレイテスト・ショーマン』の主題歌「This Is Me」の日本公開用プロモーションビデオですね。
学校を舞台にして制服の女の子たちがダンスを繰り広げるのですが、とにかく躍動感あふれるダンスが、ソロもフォーメーションも多彩な角度で楽しめるものでした。
akaneさんの振り付けは動きのコマ数も多く種類も多彩なので、ビデオに編集するとアニメーションなみのカット数になるような感じがします。
・・・場面転換が早いんですね。
2019年には登美丘高校のダンス部コーチを退任しますが、活躍の場はTV・舞台・コンサート・スポーツイベント・・・と、どんどん広がっているようです!
アメリカズ・ゴットタレント(AGT)出場の概要
2023年、アバンギャルディは世界的に有名なオーディション番組『アメリカズ・ゴットタレント(season18)』に挑戦しました。
以下にその概要を見出しとしてまとめておきます。
2023年6月6日(火)一次予選出場:楽曲『シンデレラ・ハネムーン』
〃 9月19日(〃)準決勝出場:楽曲『アイドル』
〃 9月26日(〃)決勝出場:楽曲『Money,Money,Money』
〃 9月27日(〃)結果発表
後日談・アクシデント
1次予選の結果と審査員の反応・ネットの反応は?
2023年の6月6日、アバンギャルディはアメリカで行われたアメリカズ・ゴットタレント(AGT)の一時予選に出場しました。
1次予選の結果はもちろん4人の審査員全員が認める“4YES”でした!
アバンギャルディの素晴らしい演技に対する4人の講評を聞いてみましょう。
*****以下講評*****
〇ハイディ「ぴったり息があっていて、しかも常識にとらわれていない。『日本の魂』を見せてもらったよ!」
〇ソフィア「いろいろと予想を上回ったし、見たことのない奇妙さだった。大好き!」
〇サイモン「非凡!君たちが遠路はるばる日本から来てくれて、本当に嬉しいよ。ありがとう!」
〇ハウイ「ぼくは君たちのすべてが気に入った。君たちみたいな演技は他に見たことがない。だからまず私から『イエス』を言おう!」
*****講評ここまで*****
・・・まあこんな感じなのですが、審査員4人の言わんとしていることを要約すると「今までこんなダンス見たことがない。好き。」という、意外と平凡な表現での評価なんですね。
これは後ほど説明しますが、このダンスは解説のしようもないほど前例がないタイプだったため、独創性への驚きを表現する言葉が出なかったようです。
つまり演技終了直後のコメントの時点では「このダンスで得た驚きの情報が多すぎて、脳が整理できていません。」という状況だったのだと思います。
「でも好き嫌いで言えば、大好き!」ということで間違いありません。
またYoutubeにアップされた動画へ反応も素晴らしく、再生回数は1ヶ月で400万回を突破、4000件以上のコメントと7万の「いいね」を集めており、世界中で「見どころが多い」とか「見るのが止められない」といった形でリピーターが続出しています。
中でも時代性の表現・衣装の効果・ステップの多様さ・振り付けの独創性など「プログラムに対する讃辞」は非常に多いようです。
また正確さ・キレ・表情まで徹底したシンクロ率など「ダンサーたちに対する讃辞」も多く寄せられています。
さらにコメントの中で「動画の再生グラフが凄い!」という声があったので、それを確認してみますと「最もプレイバックされた瞬間(サビ前の間奏部分でダンサーが再びステージ中央に結集し、腕によるシンクロを見せたところ)」に小さな「山」はあるんですが、逆に「凹んでいる部分」がまったくないんですね。
つまり視聴者の眼が「完全にクギ付け」になっている状態なんです。
・・・これは確かに驚きです!
これらから、アバンギャルディの演技はトータルとして非常に魅力的で情報量も豊富、多くの人の「リピートしたくなるスイッチ」を押してしまう「魅力のステージ」だと言うことができるでしょう!
アバンギャルディのダンス、ここがすごい!
会場の審査員も観覧客もべた褒め、ネットユーザーの中には数十回も試聴を繰り返す人も出ているアバンギャルディのパフォーマンス。
・・・何がそんなにすごいのでしょう?
・・・実は私もいまだにこのアバンギャルディのダンスを咀嚼しきれていません。
前回のAGT覇者のMayyasのダンスや、今回のAGTでGBを獲得し、さらに決勝へも進んだMurmurationのパフォーマンスは、「群体」や「擬態」と解釈することが容易です。
Mayyasは「生物的な擬態」、Murmurationは「デジタルな擬態」だと私は解釈していまして、どちらも個体が群体となって「他の存在のふりや、別の機能を持つ」という点で共通しています。
このような表現方法は現代の人間が考えた新しい方法ではなく、かなり古代から行われている「示威行動」や、ヒト以外の生物が行っている「集団ディスプレイ」などに起源を持つ、ポピュラーな方法だと思います。
ですからそれを見た我々が本能的に目を奪われ、畏れたり憧れたりすることに不思議はありません。
またChibi Unityのタイプのダンスは、端的に「言語をダンスに置き換えた演劇」と言うことができるでしょう。
1次予選のパフォーマンスであれば、見た人誰もが同じような(多くは不安に関連する)概念を想起し、その概念を現在の自分の状況に置き換え、その起承転結に共感すると思います。
これは人間の持つ「社会性」が反応しやすいパフォーマンスだと言えるのではないでしょうか。
ではアバンギャルディのダンスは何なのでしょうか?
これがなかなか一言で言い表すのは難しいんですよ・・・。
まず彼女たちの特異的な点を挙げると、それは(おそらく)驚異的な「動画のリピート率の高さ」です。
はっきりとした数値データがあるわけではありませんが、Youtubeに寄せられたコメントを見ると、明らかにハマってしまっているユーザーの声を多数確認できます。
かく言う私も少なくとも40回以上は再生していて、おそらくどの動画よりもたくさんリピートしていると思います。
・・これについては1分30秒程度という尺(時間のサイズ)にも要因はあると思いますが、それだけではまったく説明不十分です。
またアバンギャルディがさまざまな賞賛を受ける中で、もっとも目立つのが「コレオグラフの斬新さ」に関するもので、「独創的」「今までにない」という評価が非常に多いんですね。
しかしこれも、単に動きが「目新しい」というだけではありません。
・・・そこにははっきりとしたアバンギャルディの「カラー」が存在すると思います。
そのような視点でアバンギャルディの魅力を無理やり考察し、4つに整理してみました。
①徹底したシンクロへのこだわり
②曼荼羅のような多重構造と統一感
③「オモシロ系日本女子」の魅力
④人類未経験の無意味な動き
①については容易に理解していただけると思いますが、制服・おかっぱ頭という静的なビジュアルと、動的な振り付け・変顔の4つが高いレベルでシンクロしています。
つまりシンクロするもので視界を塗りつぶすことによって、逆に「シンクロしているモノ以外」の存在感が浮き彫りになる基本構造ができています。
そしてその「浮き彫り」になるものが②です。
②について。全体が1つのブロックで踊るときもありますが、大部分は複数のブロックに分かれたダンサーによって複数の振り付けが同時進行で行われ、なおかつ全体はしっかりとフォーカスを持っています。
これによってダンスが「ブロックごとのフォーカス」と「全体のフォーカス」という多重の集中構造を持つ「曼荼羅」のようになっており、観客の集中力を外へ漏らさないようになっているのではないでしょうか。
この構造が①に挙げた「シンクロによる塗りつぶし」によって鮮明化され、しかも各ブロックや全体のフォーカスがお互いを邪魔していません。
ですので、多様性はあっても散漫にならず「見どころ満載感」がハンパないのだと思います。
・・・もしもこれが、バブリーダンスのときのように個別の衣装や髪型で踊っていたなら、ここまでの鮮明化はできなかったのではないでしょうか?
さらに複数のブロックが全体の1ブロックに集約される動きが途中と最後で数回あり、そこに向けての「期待感」や1ブロックのときの「強烈なシンクロ」で、我々は強い快感に満たされます。
このような「曼荼羅のような集中構造」「見どころ満載」「期待感」「シンクロでの快感」などが1分30秒に凝縮されているので、1度の視聴ではすべてをとらえることができません。
このため「とらえきれない快感の源」を求めて我々は何度もリピートしているのではないでしょうか。
さて③についてですが、以下のような面白さを持った芸人やタレントを、私はここで「オモシロ系日本女子」と仮称します。
・・・それは女性のお笑い芸人、たとえば「日本エレキテル連合」や、後述する「ゆりやんレトリィバァ」に表れているような「男性からの評価に媚びない面白さ」とでも表現するべきでしょうか。
彼女たちは「男性からの視線」のようなものを振り切り「アタシたちが面白いと思ったもんがオモシロい。」と言い切る視点を持った人々です。
話は少しさかのぼりますが、昭和の初期まで日本女子の良さは「大和撫子」という「従順でしとやかな女性」のようなステレオタイプに支配されていました。
太平洋戦争から高度経済成長の間、日本女子の多くは「外で戦う男をバックアップする存在」という立場に置かれていたのだと思います。
しかし女性の権利拡張運動やバブル崩壊などの紆余曲折を経て、日本女子は政治にも科学にもスポーツにも芸術にも、世界が目を見張るような活躍を見せるようになります。
平成時代には、とりわけ芸術や芸能の分野においてファッション・アニメ・舞台パフォーマンスなどを横断する「kawaii(カワイイ)」という文化的価値観が確立され、海外のアーティストや多くの女性に影響を与えました。
・・・ただしこの「カワイイ」にも、男性からの視線を気にする部分はごくわずかですが残っていたと思います。
そして平成から令和への転換期を前後して、日本女子はカワイイの向こう側にある新たな女性像に手を伸ばし始めたのだと思います。
・・・それが私の言うところの「オモシロ系日本女子」です。
アバンギャルディが発揮する「コミカルさ」の部分にも男性からの評価を気にしたものはなく、「女子だけの高校あたりだと、内輪でこんなバカやってるのかな~?」なんて思える、すっぽ抜けた面白さが満載です。
このような「すっぽ抜け」の芸は、少なくともゴットタレントのような世界規模の芸能オーディション番組で、日本以外の女子がやっているのを見た記憶がありません。
・・・日本からはAGT2019に「ゆりやんレトリィバァ」が出場し、超絶にすっぽ抜けた芸で審査員を呆然とさせていましたね(笑)。
アバンギャルディのダンスはオープニングこそ「美しい」で始まりましたが、ステージに向かって右に移動していくあたりから「コミカル」「なんかカワイイ」動きへと変化します。
右袖で行われた「おかっぱ頭の瞬間ヘッドバンギング」や「変顔パフォーマンス」では、観客を一瞬で笑いの別世界に引きずり込みました。
世界から見たら「あんなKawaiiガールズが、マジか!」「オイオイまた日本が何か始めたよww」と驚かれる方向性だったのだと思います。
このように想定外の「すっぽ抜けコレオグラフ」が随所にちりばめられており、これが「美しさ」や「かわいさ」という従来の女子ダンスのパートと強いコントラストを形成しています。
なおかつこれらが驚愕レベルのシンクロで行われているところが、「アバンギャルディのカラー」だと言えるのではないでしょうか。
では結局、何がアバンギャルディをこれほど「独創的」「ユニーク」と言わせるのでしょうか?
最後に④についてですが・・・この見出しのはじめに、MayyasやMurmurationなどの「擬態系ダンス」、そしてChibi Unityという「演劇系ダンス」をアバンギャルディの比較対象に挙げました。
これらのダンスグループはもちろん非常にレベルの高いダンスを行っているのですが、我々はそのダンスを見てさまざまなことを連想することができます。
Mayyasを見れば別の生物の一部や群体生物、Murmurationを見れば電光掲示板のアートなど、これまでの人生で見てきた何らかの「物」を連想する方は多いと思います。
またChibi Unityのダンスを見れば、「抑圧」「対立」「抵抗」「解放」などの言語的メッセージを連想する場合が多いでしょう。
このように「何か他のことが連想できる」ということは、実は「類似の経験を我々はしている」ということになります。
ですから、言語化するのもそれほど難しいことではありません。
ではアバンギャルディのダンスはどうでしょうか?
部分的には「あれ、この動きはどこかで見た?」と思えるものもありますし、歌詞を表現している部分もあります。
しかしその他の多くの振り付けはメッセージ性もなく「ただ単純に面白い動き」であり、さらにフォーメーションの変化も幾何学的な面白さや複雑さがあり、これらは「他の何かを連想する」ようなことも無理な独創的なものでした。
もちろんこれまでのグループダンスで多かった、ヒップホップ系にありがちな「ボクはこんな技ができるんだヨ!」という「ダンサーが自分の能力の高さを披露する」というような押しつけがましい場面もありません。
そこには「ただ観客を面白がらせるためだけ」に、「およそ人類が経験してこなかった無意味で面白い動き」や「目を引く幾何学的なフォーメーションの変化」を「人類が見たことのないレベルでシンクロする」という、20人のダンサーの「無私のダンス」があったのです。
・・・このようなことが、審査員やネットユーザーから「独創的」「今までにない」という評価を得る大きな要因になっているのではないでしょうか。
清楚な制服姿やかわいらしさとすっぽ抜けたオモシロさが、人類未経験レベルでシンクロするアバンギャルディのダンス。
これはすべての文化がガラパゴス化する日本がたどりついた「ダンスの進化の最先端のひとつ」なのだと思います。
・・・これからもどんどん世界を驚かせてほしいですね!
1次予選の楽曲、シンデレラ・ハネムーンとコロッケについて
このパフォーマンスで使われた『シンデレラ・ハネムーン』は、作詞:阿久悠・作曲&編曲:筒美京平・歌唱:岩崎宏美による1978年の楽曲です。
オリコンでは最高13位を記録して、その年のレコード大賞の金賞を受賞したヒット曲です。
期待と不安を煽るイントロ、それまでの若い岩崎にはなかった「大人の男女」のちょっとアンニュイな恋模様をつづった歌詞、そしてディスコ調のリズムに合わせた振り付けと、サビでの印象的なロングトーン。
・・・筒美の編曲の良さがすべてを際立たせています。
岩崎の「大人の女性歌手」へのイメージチェンジを図る楽曲としては「これ以上ない名曲」だったのですが、思わぬ伏兵がいました。
・・・ものまね芸人のコロッケです。
この曲がヒットしてちょっと落ち着いたころ、コロッケは思いっきりアゴを前に出した「しゃくれ顔」にデフォルメして、曲中の振り付けを行いながら岩崎の顔マネをする「新ネタ」を発表しました。
もちろん客ウケは抜群に良かったのですが、そのせいで本家・岩崎宏美がこの曲をコンサートなどで歌うと、岩崎まで笑われるハメに。
そのため岩崎は「あの曲はコロッケにあげました!」という台詞を残して、しばらくの間シンデレラ・ハネムーンを封印します。
・・・岩崎のイメチェンには「あや」がついた形となりました。
あれから40年以上が経過してこのようなエピソードも忘れられたころ、akane率いる「アバンギャルディ」がこの『シンデレラ・ハネムーン』を再生したダンスを、世界に向けて披露するチャンスが訪れました。
ところが、その発表前の仕上げに「何かが足りない」としてアドバイスに呼ばれたのが、コロッケその人でした。
・・・つまり『シンデレラ・ハネムーン』の「封印」を招いた人物が、数十年の後に同曲の「再生」に関わることになったわけです。
コロッケは当時の岩崎宏美の顔マネをメンバーに伝授していきます。
「ヘン顔」と「マジ顔」のコントラストがダンス全体のハイライトを上げた結果、そのパフォーマンスはさらに高密度なものとなりました。
懸命な表情の陰に隠されてしまった「ショーマンシップ」が「ヘン顔」によって表出し、熱いだけのダンスを「振り切れたエンターテイメント」へと変貌させていったのです。
akaneがアバンギャルディに求めたモノと、コロッケがエンターテイメントに求めていたモノには、少なからず共通点があったようですね。
このパフォーマンスの骨格は、昭和歌謡を大黒柱として支えた阿久悠と筒美京平、そして当時の若手では群を抜いていた岩崎宏美の歌唱力であることは間違いありません。
しかしそれらをまったく別のエンタメに魔改造したコロッケのオリジナリティは驚くべきものでした。
そしてさらに、これらのマスターピースを掘り起こしてダンスの「背景」に使ってしまうakaneの嗅覚と構成力は尋常なものではありません。
・・・このようにしてできた「前代未聞の設計図」を現実のダンスにしてしまう「心・技・体」を備えたアバンギャルディの娘たち。
なんと多くのアーティストがバトンを渡し、バトンを受け取ってきたのでしょう。
・・・世界が驚愕するその行く先を、私は最後まで見届けたいと思います!
準決勝の結果と審査員の反応は?
2023年9月19日、アバンギャルディはアメリカズ・ゴットタレントの準決勝に出場しました。
ではAGT2023準決勝での、素晴らしい演技に対する審査員4人の講評を聞いてみましょう。
******講評ここから******
〇ハイディ・クルム「とてもよかった。まるで20体の人形に突然命が吹き込まれたみたい!
このユニークなルックスとユニークな動きのおかげで、他のダンサーとは一線を画しているってことだね!
私のお気に入りのダンスチームのひとつ。良かったよ!」
〇ソフィア・ベルガラ「すごくユニーク!
奇妙で不気味だから好きっていう感じじゃないけど、今までのダンスフロアでは見たことがないよ!
みんな素晴らしかった!」
〇サイモン・コーウェル「これまで何度も言ってきたからわかってると思うけど、ここ数年ダンスはどんどん退屈なものになってきたんだ。
でも昨年、それが変わったんだよ。
これは、今年ダンスがまた面白くなってきたことの素晴らしい実例だよ!
だって他とぜんぜん違うよ、その個性がね。
誰か歌う人はいないの?
(ここでアバンギャルディの通訳が答えるタイミングを逃します)
〇ハウイ・マンデル「通訳さんは日本語も英語もダメなわけ?(笑)」
「君たちは独創的で、私おお気に入りのダンスアクトだよ!
決勝に残るのにふさわしい。通過する2組に入る必要があるよ!
君たちの歩き方、動き方も大好きだ。
君たちのすべてが気に入ったよ!
******講評ここまで******
いやー、ハウイは準決勝では厳しい面も多いんですが、ベタ褒めでしたね。
はっきりと「決勝に残るべきだ!」と言ってくれているのは嬉しいんですが、ハウイはダンスアクトだけではなくて「芸人」としてのアバンギャルディの姿勢も好きなんじゃないかと感じました。
AGTの公式Youtubeには、1日で49万回の視聴と1.3万の「いいね」、1400件という数多くのコメントが寄せられていました。
完璧なシンクロや動きの奇妙さ斬新さに対する讃辞は前回と同様ですが、今回はこの「選曲」に対してかなり賛否があったようです。
このコメントでの論争によく表れていますが、3位にも入らなかったということは、実際の視聴者投票でもかなり賛否が割れたのではないでしょうか。
・・・これについては次のコーナーで考察してみますので、いったん置いておきます。
ところで、Youtubeのコメント欄には「大阪は日本の笑いの首都です。」というコメントや「ビヨンセは自分の MTV のためにこのチームを雇うべきだ。」というコメントがありましたが、私は強く同意します(笑)。
大阪に対する讃辞は、やはり岸和田出身のakaneさんの「お笑いに対する感受性」がなければこのアバンギャルディは始まらなかったわけですから、見逃してはいけないポイントではないでしょうか。
またビヨンセとのコラボを望む声は、とてもクリエイティブだと感じました。
このAGTでの活躍を契機に、いろんなところからコラボの声がかかるといいですね!
そして非常に多く見られたコメントが「決勝では『迷い道』のプログラムを見たい!」という声でした。
・・・それ言っちゃあダメです。世界中が検索して先に見ちゃうじゃないですか!(笑)
あの『迷い道』のプログラムの良さを損なわずに、すでに観た人が「新作?」と思えるほどの改良を加えるのは至難の業だと思うのですが・・・。
でもたぶん、決勝はインパクト抜群の『迷い道(改)』で来るんじゃないかと思います。
準決勝の楽曲「アイドル」はどうだったのか?・・・年代間の温度差は?
準決勝で使用された楽曲『アイドル』は2023年4月、音楽ユニットの「YOASOBI」によって配信の始まった楽曲です。
同年同月に封切りされたアニメ『推しの子』のテーマ曲として使用されたこともあり、日本はもちろんですが世界でも記録的なヒット曲となりました。
200以上の世界の国・地域からの楽曲の「(ダウンロード等の)チャート上位200曲」を示す「Billboard Global 200チャート」がアメリカで運営され、世界的な指標のひとつとなっています。
このBillboard Global 200チャートで、『アイドル』は日本のアーティストとして最高位となる7位を記録しました。
また、Global Excl. U.S.チャート(Billboard Global 200からアメリカのデータを除外したもの)では、J-POPの楽曲としては初めて1位を獲得しています(その後1位を3週連続)。
またストリーミングのランキングでも、史上最速の「5週でストリーミング1億回再生を突破」という、凄い記録を打ち立てました。
曲の作り方はというと、イントロ直後は『O Fortuna』のような、ちょっと荘厳な教会音楽風のコーラスに始まり、この部分はけっこうドラマチックで期待感もあります。
その後は一転して「ジャパニーズヒップホップ」と、サイリウムを振りたくなるような「ボカロ系」の部分が繰り返される感じになり、これが曲全体のイメージの中心になると思います。。
リズムとしては全体的に平板なのですが、途中の移調などで曲自体はどんどん盛り上がっていく感じですね。
・・・このような曲だったのですが、AGTの舞台ではどうも評価が割れたようです。
ここの冒頭でもご紹介したとおり、配信などの業績ではアメリカも含めてかなり高い結果を出しているんですが、やはりそこには「視聴者層」の壁が私からすると2つほどあったんじゃないかと推測します。
①ひとつ目は、日本のアニメやボカロに慣れていない人たちにとっては、ボカロ調の起伏の少なさが「飽き」や「ノレない」という抵抗感の原因になったのではないか、ということです。
これを表面的にとらえると、Youtubeのコメントにも挙がっていたような「アニメファンか否か」という視聴者層の壁になると思います。
音楽は「ノレてなんぼ」ですから、聴きなれていない「ボカロ系の曲にノレなかった」人達がたくさんいたことは想像できるでしょう。
もしこれが、もっと「起承転結」がはっきりしていて「起伏の豊かな曲」であったなら、初めて聴く視聴者にももう少し受け入れやすかったのではないかと思います。
②2つ目ですが、配信やストリームの成績を引っ張ったのはおそらく「若者だけ」だったのではないかという点です。
これは音楽のジャンル(JPOPのしかもボカロ風)が影響しているのは当然ですが、実は「新曲」そのものを追いかけているのが「若者中心」であることもかなり大きいのではないでしょうか。
フランス発のストリーミング・サービス「ディーザー」がイギリスのリスナー1000人を対象に行った調査によれば、「人は平均して30.5歳で新しい音楽を探さなくなる」という結果があります。
ここから考えれば、『アイドル』の配信やストリーミングのロケットスタートを担ったのは「若いリスナーの人々」と考えるのが妥当であり、その後のわずか数か月で広い世代にまで浸透したとは考えられません。
ところがAGTの客席を見れば、もちろん若者ばかりではなく、40代・50代・60代以上の観客もたくさんいるように見えます。
ここから「ケーブルTVを視聴している客層も似たようなもの」だと考えれば、この準決勝の投票には新しい音楽にとびつかない「年齢層の壁」もあったのではないか、との推測ができます。
ですから、いくらアメリカでアニメの人気が高く、楽曲『アイドル』の業績が世界的に良かったとしても、AGTの投票権を持つ人の何割かは、この曲に共感できないままアバンギャルディの演技を観ていたのではないでしょうか。
・・・これでは3位にも入らなかったのは当然だったのかもしれませんね。
ですから選曲の際に本来は、「その曲がどれだけ(絶対数として)アメリカで人気があるのか」ではなくて「その曲がどれだけ(割合として)AGT視聴者に拒絶されないか」に着目するべきだったのかもしれません
ダンスの途中で画面に映った審査員サイモンは、腕を組んで椅子にふんぞり返っていましたが、もしも自分がノレる曲であったならば、逆に前に身を乗り出していたのかもしれません。
これに対して1次予選で使用された『シンデレラハネムーン』は1978年の発表ですが、その曲調はさらにそれ以前の70’sダンスミュージック(いわゆるディスコミュージック)の影響を強く受けています。
初めて聴いた日本人以外の広い世代の人にもノリやすかったので、広い年齢層でよい反応を得られたのではないでしょうか?
ちなみに1次予選の審査も2次予選のジャッジカットも「視聴者投票」ではなく、審査員とプロデューサーによる選考なので、基本的には「若年層ではない人たちによる判断の結果」だと考えて差し支えないと思います。
さて、ではこのような「選曲の逆風」にもかかわらず、アバンギャルディがワイルドカードで決勝に進めたのはなぜでしょうか?
ワイルドカードで決勝進出!ハウイの推薦はなぜ?
決定の経緯から振り返れば、そこにはやはり審査員ハウイ・マンデルの推薦と、視聴者のアバンギャルディへの期待があったはずですね!
この2つの要因についてまとめてみました。まずはハウイの推薦についてです。
ハウイは準決勝の講評ですでに「君たちは決勝に残るべきだ!」と言っていましたし、振り返れば一次予選からアバンギャルディの娘たちのしぐさにもうゾッコンだったようです。
ハウイ・マンデルの経歴を見ればわかりますが、彼の出自はコメディアンです。
そして彼オリジナルの有名な芸のひとつが『Chicken trick』と呼ばれる、ゴム手袋を頭から鼻の下まで被って鼻から空気を送り、手袋の指の部分をトサカのように立ててニワトリの真似をするという、なんともナンセンスな芸でした。
そこにあるのは「観客が笑う」という最終目的への執着心のみで、傍から見たらそれがいかにバカバカしいものなのか、あるいは彼がどれだけ無様に見えるのか、などということは一切気にしていません。
一方でアバンギャルディの芸風も、観客の笑いのためにはおバカなポーズや振り付けも全く厭わず、20代の女性が普通は捨てきれない「カワイイ自分」や「愛されるワタシ」をすべて振り切って、高速超シンクロで行われる「無私のダンス」を披露しています。
もしかすると彼はアバンギャルディの中に、若き日の自分と同じ「観客の笑いのために、全てを振り切った姿勢」を観ていたのではないでしょうか。
そしてハウイはおそらく・・・ダンスで「格好つけるタイプ」の人やパフォーマンスがあまり好きではありません。
2022年のAGTで準決勝に進出した「トラビスジャパン」の演技に対して、ハウイは躊躇なく赤ブザーを押していますが、これはボーカルが乱れたことに対してだけではないと思います。
トラビスジャパンの演技は、基本的に「アイドルの売り込み」を重視した構成になっているような気がします。
ダンスやアクロバットの演技自体はそれほどレベルの高いものではありませんが、ひとりひとりのスペックを披露するための見せ場を作ったり、カメラ目線したりと「アピール」に忙しい構成でした。
このような構成は、見方によっては「トラビスジャパンという商材のプロモーション」であって「観客のため」というよりも「タレントのため」ではないかとも思えます。
しかしハウイはコメディアンとして自分を嘲笑の対象にして、観客を楽しませるエンターテイメントを提供していた人物です。
彼のような人物には「これをエンターテイメントと呼ぶか?」「ラスベガスの舞台にふさわしいのか?」という疑問があったのではないでしょうか。
これは奇しくも、ものまね芸人のコロッケがアバンギャルディにシンデレラハネムーンの「変顔」を伝授した際に言っていたことと重なります。
コロッケはあのとき「ダンスで若い人たちが『俺イケてる?』ってやってるじゃん?・・・あれちょっと違うんじゃないか?・・・って思うんだよね」という問題意識をアバンギャルディに伝えていたのです。
このように、コメディアンたちのおそらく多くが「エンターテイメントへの姿勢」へのこだわりを持っているのではないでしょうか。
そして今回それは、akaneにもコロッケにもハウイ・マンデルにも共通した部分があり、最終的にはその「こだわり」が、アバンギャルディの背中をハウイが押す結果につながったのではないかと私は推測しています。
敗者復活!・・・視聴者投票でのアバンギャルディへの期待とは?
さてここからは、ハウイに推薦されたアバンギャルディがなぜワイルドカードの1位に選ばれたかについて考えてみましょう。
11組目の「ワイルドカード枠通過者」を選ぶために、まず審査員4人は視聴者投票で落選したチームの中から「候補者」を1組ずつ推薦しました。
サイモンは司会テリーのGB(ゴールデンブザー)、Chioma & The Atlanta Drum Academy(アメリカの打楽器合奏団)を推薦。
ソフィアは自分がGBに選んだGabriel Henrique(ブラジルのホイッスルボイス歌手)を推薦。
ハイディはHerwan Legaillard(フランス出身の剣呑みアクト)を推薦しました。
この3組とハウイが推薦したアバンギャルディの合計4組が「視聴者による5分間のアプリ投票」の対象になり、その結果、最多得票でアバンギャルディがワイルドカード枠に選出されたという経緯でした。
準決勝では選曲の逆風に泣いた彼女たちでしたが、全米の視聴者はライバルの3組よりもアバンギャルディに対して「もう一度見たい」と言ってくれたわけです。
この理由については推測ですが、この4組の中でまだ「底」が見えていないのがアバンギャルディだったからではないでしょうか。
彼女たちのパフォーマンスは「アバンギャルディのここがすごい!」の「④について」で紹介したとおり、とくに欧米の人々が人生の中で経験してきた「何か」を連想できるようなものではありません。
「複数の振り付けが同時進行しながら目まぐるしくフォーメーションの変わるダンスに、およそ人類が経験してこなかった無意味で面白い動き」と「人類が見たことのないレベルのシンクロを伴うパフォーマンスなのです。
1次予選で見せた「かわいさ」や「華やかさ」と「オモシロさ」の同居や、準決勝で見せた「不気味さ」や「無心さ」と「オモシロさ」の同居などは、世界中を探してもそう簡単には見つけられません。
打楽器合奏団のもたらす感動も、ホイッスルボイスが招く高揚も、剣呑みが突き付けるスリルも、大まかに言えば我々はそれと類似したものを経験しています。
しかしアバンギャルディが持っているであろうものは他の何かで例えようのない、言わば「人類未体験ゾーン」なのです。
「もし彼女たちが決勝の大舞台で、もうちょっと万人向けの曲を使って踊ったら、どんな『未体験ゾーン』を見せてくれるのだろうか?」
・・・なんていう期待を、多くの視聴者が抱いていたのかもしれません。
泣いても笑ってもあと1回のステージです。
アバンギャルディのすべてを出し切って、全視聴者を「??」や「ww」や「!!」でいっぱいの世界に連れて行ってあげてくださいね!
アバンギャルディが決勝で演技しました!
2023年アメリカにおいて、アバンギャルディが現地日付けで9月26日(火)、AGT決勝のステージで演技しました。
曲目はスウェーデンの4人組『ABBA』の世界的なヒットのひとつ、1976年にリリースした『Money,Money,Money』です。
さっそく審査員の講評を聞いてみましょう!
*****以下講評*****
〇ハウイ・マンデル
いやー、一番いいネタをとっておいてたんだね。
君たちのオリジナリティと動きが僕は大好きなんだ。
ダンスにコメディを盛り込むというのは、これまで見たことがない。
君たちはそう、面白くて僕を笑わせてくれるし、怖がらせてもくれる。
来シーズンの『ウェンズデー』のオープニングシーンになるかもしれないね。君たちが大好きだよ!
(『ウェンズデー』はNetflixで放送されているホラーコメディで、映画『アダムスファミリー』のシリーズ作品のひとつ)
〇ソフィア・ベルガラ
この演技を見るときはいつも言うんだけど、つまり君たちはとてもヘンテコで、同時にファンタスティックで面白いのよ。
あなたたちはファイナルにふさわしいよ!
〇サイモン・コーウェル
(まず司会のテリーが、スタンディングオベーションのまま、まだ座らないサイモンに「サミー、なかなか座れないね?」と声をかけます)
これはセンセーショナルだと思ったよ。
イタリアの演技、南アフリカの演技、日本の演技・・・ホントにこれは君たちがやった中で最高の演技だったと思うよ。
とっておきのネタを最後に残してくれて、この決勝を本当にエキサイティングなものにしてくれた。
僕は君たちを楽しみにしてる。正直、本当に素晴らしかった!
〇ハイディ・クルム
またしても素晴らしいパフォーマンス!
君たちは本当にWOWと言わせてくれたね、ありがとう。
幸運が来ますように!
*****講評ここまで*****
今回は「裏事情」として、「6ヶ月練習してきたプログラムの楽曲が権利問題で使えず」「結局2日間でABBAの楽曲に合わせて仕上げた」という経緯があったようです。
この「6ヶ月練習してきたプログラムの楽曲」が『まよい道』なのかどうかは現在わかりませんが、コレオグラフとしては『まよい道』をベースにして組んできたようです。
ただし楽曲が世界的に有名な70年代の曲でしたので、おそらく視聴者の共感は得られたのではないかと思います。
少なくとも2人の審査員は「一番いいネタをここで出してきたね!」というコメントをくれました。
コレオグラフについてですが、これまでのプログラムにくらべると目を引く「大技」はありませんでしたが、私は逆に「これまでの3作の中で、最もアーティスティック」という印象を持ちました。
それは大技に目を奪われない分、フォーメーションの変化がよく感じられたからなのかもしれません。
そして今回は「速い動き」だけではなく「ゆったりした動き」を随所にきちんと見せることで緩急が生じ、演技全体にめりはりを与えられたかもしれません。
このゆったりした動きに「阿波踊り風」のダンスを入れたあたりは「お茶目」な感じもしますが、私は今後の展開として「世界のダンスをオマージュする」という、新たなダンスパートの可能性として面白いなと感じました。
ネットの声も含めて、後ほどじっくり解説したいと思います。
グランドファイナルで結果発表!・・・視聴者投票の行方は?
決勝の翌日、現地日付け20023年9月27日(水)のグランドファイナルで、昨夜一晩の視聴者投票の結果が発表されました。
残念ながらアバンギャルディはTOP5には届きませんでした。
その模様をざっくりとお伝えしますね。
AGTのグランドファイナルでは、まずステージ上に全11組が集まり「TOP5の発表」となります。
その場で11組の中から2組ずつ(最後だけは3組)が呼ばれて前に並び立ち「どちらのチームが残るか」が、司会のテリー・クルーズから次々と発表されます。
この時点で6組が敗退し「TOP5」が残る、という段取りです。
次にこのTOP5から1組ずつが順番に「5位で敗退」「4位で敗退」「3位で敗退」と宣言されて次々とステージを去ります。
最後に、ステージに残った2組の一方に「優勝」が宣言され、他方に2位が宣言されます。
アバンギャルディはこの「TOP5発表」の5番目(最後の組)に呼ばれ、ムザンジ・ユース合唱団と、優勝候補の呼び名も高いMurmurationと一緒に並び立ちました。
その直後にMurmurationがTOP5入りを宣言され、ムザンジ・ユース合唱団とアバンギャルディは敗退を宣言されました。ちなみに日本から決勝に残ったChibiUnityも、この「TOP5発表」の2組目の中で敗退を宣言されています。
こうしてアバンギャルディのAGTへの挑戦は終わりました。
しかし彼女たちは、すべての視聴者にとてつもないインパクトを与えたはずです。
アバンギャルディのダンスが現代で最も斬新でアバンギャルド(前衛的)なものであり、そして「自分を格好よく見せる」ことよりも「観客を楽しませる」ことを優先した「純度の高いエンターテイメント」であることを世界は理解しました。
これから先、海外でもアバンギャルディに影響を受けたダンスチームが出てくると思います。
そしてそのとき、彼女たちの設定したハードルがいかに高かったのかを再認識するでしょう。
AGT決勝直前のアバンギャルディが遭遇したアクシデント!『Money,Money,Money』をめぐる“使用権利”の問題とは?
決勝直前にアバンギャルディを襲ったアクシデントは「半年かけて練習してきた楽曲が、使用権利の許諾がとれず本番で使えない」というものでした。
この「許諾がとれなかった楽曲」について、ネット上では渡辺真知子さんの「『迷い道』ではないか」あるいは「『かもめが翔んだ日』じゃないか」などとの憶測がありましたが、これは振付師akaneさんが本番直後の深夜に自らのラジオ番組で明らかにしたとおり、ABBAの『Money,Money,Money』の「原曲そのもの」だったそうです。
この「原曲」の使用許諾がとれていないことについてすでにakaneさんはわかっていて、「しかしカバー曲なら許諾がとれるのでは」と申請していたところ、ようやく本番4日前にして「カバー曲」の使用許諾が下りたとのことでした。
しかし問題は、その音源が原曲とアレンジが異なっていていたため「音がスカスカ」だったことだそうです。
音数もちがっていたため練習してきた振り付けに馴染まず、AGTのスタッフに相談して音源を加工してもらい、なんとか2日前にダンスに使えるレベルに間に合ったようです。
こんな経緯でしたので、半年かけて練習してきたことがまったく無駄になったわけではなかったのですが、踊る本人たちからすればもうこれは大問題ですよね。
アバンギャルディのダンスはご存じのとおり大人数で行うものとしては非常に複雑で、振り付けそのものの種類も多く、そのために次のフォーメーションへ変化する「移動」も複雑で多いことが特徴です。
19人が振り付けを揃えたり、あるいはこの複雑な「移動」をぶつかることなく成功させるには、もちろんタイミングとスピードが重要です。
そしてこのタイミングを彼女たちがどのようにして測っているかというと、もちろん「音源」が最も重要な要素になるでしょう。
ではこの「音源」の音の数やタイミングがちがっていたら・・・?
「目印にしていた音がない!」「あの音が、別の楽器の音なの?」「休符になってるじゃんww」
・・・こんなことではあの複雑なダンスを成功できるはずがありませんよね?
おそらく私たちが考える以上に深刻な問題だったと思いますが、それをなんとか2日で本番に合わせてきた、ということなのだと思います。
「音がとれない」ことで、実際に準決勝『アイドル』ではミスが出ていた!
これもakaneさんがラジオで言ってたことだったのですが、実は準決勝の『アイドル』のダンスでは大きなミスが起こっていたそうです。
皆さんは気づきました?・・・私はまったく気づきませんでした!
このダンスの「入り」は本来、スカートのすそを持って下を向き低く構えた姿勢から、全員が「一斉に立ち上がる」というものでした。
しかしakaneさんいわく「会場の歓声が凄くて、イントロの音が聴こえなかった」ということなんですね。
イントロはカスタネットを早打ちしたようなカタカタという細かい音から始まるのですが、これが大歓声と区別がつきません。
その結果彼女たちの「一斉に立ち上がる」という入りの動作ははっきりとズレてしまいました。
客席で見ていたakaneさんは「え?え?何が起こってる!?」とかなり動揺したそうですが、ステージ上のアバンギャルディたちも相当焦ったことでしょう。
「入り」でタイミングがズレてしまえば、その後の「振り」もどこかの音で合わせてリセットしなければなりませんし、さらに動揺した気持ちのリセットも必要です。
しかし準決勝の『アイドル』は、聴いた限りでは歴代でもっとも音数が多い「高難易度」の曲だったのではないでしょうか?
リセットどころではなく次々に別の振りや移動が押し寄せてきますから、もうこうなったらこれまでの「練習量」を信じて、「無心」で踊るしかありませんよね。
akaneさんも「(もう聴くのもイヤなくらい)この曲にはずっと悩まされ続けた」と振り返っていますから、難しいプログラムだったのは間違いないでしょう。
しかし本番が終わって配信された動画を見れば、あら不思議。
後ろの列から「順番に」立ち上がっているように見えます。
これを見たakaneさんとアバンギャルディは「あ、これはセーフやセーフ!」と胸をなでおろしたとのことです(笑)。
ケガにつながる「移動中の衝突」などが起こらなくて、良かったですね!
こういったアクシデントも、akaneさんとアバンギャルディの「経験値」になっていくのでしょうね!
・・・でも決勝の『Money,Money,Money』は「イントロ開始と同時に振りも開始」だったので、このプログラムこそどうやって入りのタイミングを揃えたのか、何度動画を見てもわかりません・・・。
決勝のステージの背景、はじめはリビングだった!?
さて決勝のビジュアル面を思い出せば、アバンギャルディも背景もブラウン系で統一されていましたね。
背景は客席が3階まであるクラシカルな大ホール風だったのですが、実はAGT側からはじめに提案されたのは、なんと「一般家庭っぽいリビング」だったそうです。
・・・さすがにこれはあり得ませんよねww
これにはもちろんakaneさんがダメ出し、何度もAGTスタッフとぶつかりながら、最終的にはあのクラシカルな大ホール風になったようです。
このような出場者とAGTスタッフとの間の「行き違い」→「ひと悶着」→「お互いある程度妥協」→「最終合意」みたいな流れは、AGT側からすると毎回のように起こっていることだとは思いますが、初出場の側からすると「ここに来て、何そのセンス!?」とビックリすることは間違いないでしょうね。
言葉は通じなくとも、意外にもお互いの違和感や要求の方向性は通じていたそうで、なんとか「交渉成立」となったそうです。
このような経験は今後の(世界からオファーが来るであろう)アバンギャルディやakaneさんにとって、貴重な経験になったのではないでしょうか(笑)。
1次予選の楽曲「シンデレラ・ハネムーン」の「1.14倍速バージョン」が配信開始!
AGTシーズン18の1次予選でアバンギャルディが踊った『シンデレラ・ハネムーンの1.14倍速バージョン』が、ビクター・エンターテイメントから2023年10月6日に配信開始されました!
アバンギャルディのAGTのダンス動画は世界中で1000万回を越えて再生される勢いですが、そこで使われていた『シンデレラ・ハネムーン』は原曲を1.14倍に速くしたバージョンでした。
これに対して世界から『ダンスで使われた1.14倍速を配信してほしい!』とのリクエストが殺到し、今回の運びとなったようです。
・・・これはおそらく、アバンギャルディのダンスを「コピーしたい人たち」がたくさん存在するということなのだと思います。
2017年に振付師のakaneさんがプロデュースした『バブリーダンス』は日本で社会現象になりましたが、今回のアバンギャルディによる『シンデレラ・ハネムーン』は、世界での社会現象になるかもしれませんね!
・・・管理人は「男性だけのコピーユニット」を期待しています!
アバンギャルディはAGTの歴史に「前代未聞」を作りました!
AGT2023でアバンギャルディは惜しくも5位以内には入りませんでしたが、AGT運営側をはじめとして、周囲から「順位以上に特別な注目」を受けていたことがよくわかる動画があります。
『Avantgardey and the AGT Finalists deliver an EPIC music video!』
この動画はもちろんAGTのオフィシャル動画で、3週間で101万回の再生がされています。
アバンギャルディが『シンデレラ・ハネムーン』にのって他のファイナリストたちとコラボするパフォーマンスが収められているのですが、akaneさんによればこのような動画がAGTによって制作されること自体が初めてなのだそうです。
このAGTによる「前代未聞のとりはからい」は、言い過ぎかもしれませんが「特別賞」と解釈することさえ可能です。
・・・それほどアバンギャルディのパフォーマンスが印象深く、共有されるべきものという評価なんですね!
そして同時にこの動画制作のきっかけを作ったのは、アバンギャルディのメンバーの抜きんでた社交性でもあることもakaneさんは語っていました。
現場での彼女たちは、言葉もろくに通じないのにどんどん他のファイナリストたちと交流を始めてしまっていたそうです。
またAGTのスタッフにもとても可愛がられていたそうで、このように周囲を巻き込んでいく「横のつながり」が、コラボ動画のアイディアにつながったことはまちがいないでしょう。
動画をご覧いただければわかると思いますが、このような企画はアバンギャルディ以外では実現できないと思います。
もともとアバンギャルディが発足するとき、選考の段階でダンススキルだけではなく「自己プロデュース力」も要求されていた彼女たちですので、ひとりひとりが「人として」「パフォーマーとして」周囲との関係性を構築する力を備えていたわけです。
ただその「自己プロデュース力」が、このような形で「AGTによる前代未聞のとりはからい」に結び付くとは誰も予想していなかったと思いますが(笑)。
ステージ外でも周囲を共感に巻き込んでいくアバンギャルディのパワーは、彼女たちが単なるダンサーではないことをはっきりと示していると思います。
akaneさんの傑出した振り付けだけでは、このような現象は起こりません。
岩崎宏美の『シンデレラハネムーン1.14倍速』が配信になったという記事で、私は「アバンギャルディのダンスは世界で社会現象を起こすかもしれない」と書きました。
しかし「小さな社会現象は、すでにAGTの現場で起こっていた」というわけですね。
・・・彼女たちの発信力に、改めて脱帽です!
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
コメント
どこかのコメントで人間万華鏡と評したのを思い出したw
コメントありがとうございます。「人間万華鏡」、なるほどしっくりきますね。・・・私の「曼荼羅」も、たぶんそれに近い感覚です!