浅黒い肌にスキンヘッド、スーツの下にはパンパンに張りつめた筋肉・・・まるで「パワー」そのものを象徴するような風貌です。
彼の名はテリー・クルーズ、NFLのプレイヤーから芸能界へと転向し、映画やCM、そしてアメリカズ・ゴットタレントの司会者として活躍するタレントです。
しかしAGTにおける彼の存在は「パワー」の象徴などではなく、あくまで出場者がその実力が発揮できるように、バックステージで気遣い、励ましながら番組を進行する「名脇役」です。
強さと優しさの両面がにじみ出る彼のキャラクターは、どのような人生経験によって培われてきたものなのでしょうか?
今回は管理人の実体験から「テリー・クルーズのキャラクターの成り立ち」の解読も試みたいと思います。
・・・テリーの魅力に迫ります!
テリーの経歴は?生い立ちからNFLまで
テリー・クルーズ(Terry Crews)は1968年7月30日、アメリカのミシガン州フリント(デトロイトの北にある町)で、母親パトリシアと父親テリー・クルーズ・シニアの間に生まれました。
テリー自身の体格は身長191cm、体重110kg程度ということで、日本人から見ればプロレスラー並みなのですが、父親のシニアはさらに大きかったようです。
幼少期のテリーがこの大きな父親を恐れて育ったことや彼の家庭が問題を抱えていたことは、テリー自身がインタビューで詳しく語っています。
このためテリーは大人になっても「他人に合わせること」がスタンダードであり、相手に「NO」と言えない窮屈な自分に長い間気が付けなかったようです。
実を言いますと管理人も「問題を抱える家庭」の当事者であり、幼い頃の環境が後々までその人の人生に深く影響する様子を、目の当たりにしてきました。
もちろんその影響は悪いことだけとは限っていませんので、どのような角度でその問題をとらえるかによって、ダメージだけでなくメリットにすることも可能ではあると思います。
テリー・クルーズの場合も「自分にとって窮屈な側面」が、同時に「他人の痛みをわかる人」という、彼のキャラクターの中でも「もっとも重要な一面」を形成したのではないかと推測できます。
そしてこれは後々、アメリカズ・ゴットタレントの司会者として活躍するとき、大いに役に立つことになったようです。
テリーは芸術の面で才能があり、10代の頃は特殊メイクアーティストのリックベイカーに強く影響を受け、SF映画の特殊撮影やメイクアップ・アーティストへの憧れを持っていたそうです。
また彼は大叔母からプレゼントしてもらったことがきっかけでフルートの演奏のスキルもありましたから、音楽についても多少の実践経験がある人物と言えます。
そんな彼はアート・エクセレンス・スカラシップという芸術系の奨学金と、フットボールでのアスレチック・スカラシップ(スポーツ奨学金)を受け、ウェスタン・ミシガン大学(WMU)に進学しました。
この時点ですでに芸術とスポーツの両面で奨学金の水準を満たす、優秀な学生だったわけですね!
テリーの所属する「WMUブロンコス」は1988年のMAC(Mid-American Conference;全米体育協会NCAAのうち五大湖周辺の大学が参加しているパート)の選手権で優勝していますが、このときテリーは20歳、学年でいえば2回生かと思いますが、主力選手として活躍していました。
大学リーグでの活躍が認められたテリーは1991年、NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)のロサンゼルス・ラムズにドラフト指名され、プロのプレイヤーになります。
プロとしての在籍中にも彼は絵の腕前を発揮しており、チームメイトの似顔絵を描いていたことは有名ですね!
L.A.ラムズを皮切りに、その後テリーはサンディエゴ・チャージャーズ(1993年)、ライン・ファイヤー(1995年;NFLヨーロッパ・ドイツ)、ワシントン・レッドスキンズ(1995年)、フィラデルフィア・イーグルス(1996年;登録のみ)の選手として6年間活躍しました。
そして1997年にNFLの現役選手を引退します。
このときテリーは29歳ということになり、プロ野球選手などにくらべるとずいぶん早いように感じる方も多いと思いますが、NFLの選手の平均的引退年齢は27~28歳と言われていますので、ごく平均的な範囲なんですね。
これは選手間の競争が激しいために新陳代謝が速いことに加え、そもそもアメフトが筋肉の「瞬発力」への要求が大きいスポーツであること・そして衝突や転倒が多く故障のリスクが高いため、コンディションの長期維持が難しいことも関係していると思います。
ですので、プロのフットボール選手になった時点で選手の誰もが「5~6年後には引退かも?」「再就職先を探さなくちゃ!」と考えるのが当然なのでしょう。
テリー・クルーズもこの例外ではなく、29歳の年に引退して「芸能界」への転向を選んだわけです。
もともと美術の才能は認められていましたし、SF特撮への憧れも強かった彼ですので、映画製作に近い「俳優」という道を目指したのは必然といえば必然です。
スポーツ・リアリティ番組からコメディ映画、そしてアクション映画へ
引退した彼はロサンゼルスへと拠点を移しましたが、NFLのプレイヤーとしてスタートしたのもロサンゼルスでしたから、彼にとっては馴染み深く、そして日本風に言えば「縁起のよい場所」だったのかもしれません。
転向後の2年ほどはあまり仕事には恵まれず、掃除や警備員などで食いつないでいたようですが、1999年の『バトル・ドーム』というリアリティ番組が、テリーのブレイクのきっかけになりました。
これはオリジナルの競技にスポーツ系俳優たちが挑戦する番組なのですが、彼はこのオーディションに参加してseason1のレギュラーの座を勝ち取り、「T・Money」というキャラで活躍しました。
これを契機に2000年からは念願の映画にも進出します!
『The 6th Day』(2000;SFアクション、邦題『シックス・デイ』、A.シュワルツネガー主演)でスクリーンデビューし、それ以降も映画への出演が続きます。
『Serving Sara』(2002;ロマンチックコメディ、邦題『エリザベス・ハーレーの明るい離婚計画』)
『Friday After Next』(2002;コメディ)
『Deliver Us from Eva』(2003;ロマンチックコメディ、邦題『エバのトラブル恋愛事情』)
『Malibu’s Most Wanted』(2003;コメディ/風刺、邦題『お坊ちゃまはラッパー志望』 )
『Starsky & Hutch』(2004;アクションコメディ、邦題『スタスキー&ハッチ』)
『Soul Plane』(2004;コメディ、邦題『ソウル・プレイン/ファンキーで行こう!』)
『White Chicks』(2004;コメディ)
『Idiocracy』(2006;SFコメディ、邦題『26世紀青年』)
『Norbit』(2007;コメディ、邦題『マッド・ファット・ワイフ』)
『Balls of Fury』(2007;スポーツコメディ、邦題『燃えよ!ピンポン』)
『Street Kings』(2008;アクション、邦題『フェイク シティ ある男のルール』)
『Get Smart』(2008;アクションコメディ、邦題『ゲット・スマート』)
『Terminator Salvation』(2009;SFアクション、邦題『ターミネーター4』)
『Gamer』(2009;SFアクション、邦題『ゲーマー』)
『The Expendables』(2010;アクション、邦題『エクスペンダブルズ』)
ついに来ましたね、エクスペンダブルズ!
『The Expendables 2』(2012;アクション、邦題『エクスペンダブルズ2』)
『Draft Day』(2014;スポーツドラマ、邦題『ドラフト・デイ』)
『The Expendables 3』(2014;アクション、邦題『エクスペンダブルズ3』)
『The Ridiculous 6』(2015;コメディ、邦題『リディキュラス・シックス』)
『Sandy Wexler』(2017;コメディ、邦題『サンディ・ウェクスラー』)
『Deadpool 2』(2018;アクションコメディ、邦題『デッド・プール2』
『Sorry to Bother You』(2018;コメディ、邦題『ホワイト・ボイス』)
・・・こうして見ると2000年代はコメディ映画への出演が中心になっていたようですが、その終盤から2010年代に入るとアクション映画への出演が目だってきますね。
とくに2010年の『エクスペンダブルズ』は、70年代から活躍していたシルベスター・スタローンなど「往年のアクションスター」たちから、現在売り出し中のジェイソン・ステイサムなど「中堅どころのアクションスター」たちまでを一堂に集めた「アクションスター名鑑」のような作品です。
このような作品に、これまでアクション映画でまだあまり大きな足跡を残していなかったテリーが、しかもメインキャストのひとりとして抜擢されたのは、むしろ「異例」と言えるのかもしれません。
これはやはり、彼のNFLや『バトル・ドーム』から続く「肉体派」としての認知度と、10年間コメディ映画で鍛えた「喜怒哀楽」の演技力が評価された結果ではないかと思います。
ドラマでも活躍、CMでは話題のテリー・クルーズ
またTVドラマにも進出し、堅実な活躍を続けています。
2005年のseason1から2009年のseason4まで続いたホームコメディ『Everybody Hates Chris』では、テリーは父親役としてメインキャストを務めました。
『BROOKLYN NINE-NINE』は2017年のseason1から2021年のseason8まで続いている人気コメディドラマで、2019年にはゴールデングローブ賞を受賞した作品ですが、テリーは本人役でレギュラー出演しています。
また2022年の『TALES OF THE WALKING DEAD』(一話完結のシリーズ)では、episode1の主人公ジョーを務めています。
この作品は世界中で大ヒットしたホラーの連続ドラマ『THE WALKING DEAD』(2010;邦題『ウォーキング・デッド』)のスピンオフ・シリーズとも言えるものですので、そのepisode1の主役に抜擢されたということからは、製作側のテリーへの期待の大きさが推察できますね!
そしてテリー・クルーズの出演作でスルーすることのできないものが「♪パパパッパッパ、パ・パゥワー!」のフレーズで有名になり、10年も続いたTVCMです。
これはもちろんアメリカで販売されている「オールドスパイス」というボディソープのCMなのですが、その壊れっぷりがあまりにも見事なため、日本でもニコニコ動画で話題になりました。
テリー・クルーズの「振り切っている」演技が、このカオスなCMのシリーズ化に貢献していることは、誰が見てもまちがいないところでしょう。
このように映画やTVドラマで着実に実績を重ねてきた彼ですが、では続いてアメリカズ・ゴットタレントでの活躍も見ていきましょう!
AGTの司会はいつから?番組内でのキャラは?
テリー・クルーズは2019年のseason14からすでに5年にわたってAGTの司会を続けていますが、これはこれまでの最長であるニック・キャノン(season4~11;マライア・キャリーの元夫)の8年に次ぐ長さです。
このページの「生い立ち」で紹介したとおり、テリーは怯えて育ったがために「他人の痛みがわかる人」です。
司会を行うにあたっても出場者の不安や緊張にはすぐに反応できたことでしょう。
テリー・クルーズを紹介する動画で、AGTのボスであるサイモン・コーウェルは「テリーは働いていない。彼は純粋に人生を送っている。」という言葉で彼を評価しています。
これは彼を「仕事熱心ではない」と非難しているのではなく、その意図するところは「テリーが出場者に寄り添う姿勢はビジネスのために作ったものではなく、彼のキャラクターそのものだ」という讃辞なのだと思います。
こうして振り返れば、彼はスポーツ・美術・音楽・映画などについて強い興味や実践経験を持ち、他人の痛みや不安・緊張にも気を配れる人物なわけです。
AGTの司会者として何年も活躍できているのは単なる偶然ではないと言えるでしょう!
テリーの年収やプライベートは?
テリークルーズは同じウェスタン・ミシガン大学で音楽と舞台を学んでいたレベッカ・キングと知り合い、1990年に結婚しました。
これは彼が22歳になる年のことですし、NFLからドラフトを受けたのが1991年であることを考えると、けっこう早い決断だったのではないでしょうか。
レベッカは2人のなれそめに関するインタビューの中で、知り合った頃のテリーは「いい人すぎた」と語っていますが、この一言にはテリーの抱えている問題に対してレベッカが「何かを感じ取った」というニュアンスが凝縮されており、私は非常に感心しました。
そのようなレベッカの観察眼がブレーキとして働いていたのか、2人はすぐ恋に落ちたというわけではなかったようです。
しかし結婚した年に長女が生まれ、その後はテリーの転職の落ち着きを待ったのでしょうか、次女の誕生までは数年の間がありましたが、結局は娘4人と息子1人の子どもに恵まれました。
好調な仕事とは裏腹に、結婚生活には離婚の危機もあったようですが、しかし時間をかけて2人で乗り越えた結果、現在はお互いを尊敬する間柄でいるとのことです。
テリーは現在、ロサンゼルスに9つのアパートメント、テキサス州に4つのヴィラを持っており、1隻のヨットと10台の高級車も所有しています。
AGTの1シーズン(22回)のギャラは150万ドル(約2億2500万円)と言われており、1回の出演で6.8万ドル(1020万円)を稼ぎ出しています。
彼の年収は推定580万ドル(約8億8500万円)で、総資産は2024年時点で2500万ドル(約37.5億円)とも3000万ドル(約45億円)とも言われています。
NFLを引退したばかりの1997年には、妻子を連れているのにも関わらず清掃や警備のバイトとして苦しい生活を強いられていたテリー・クルーズ。
そのころと比べると想像すらできない増収ぶりですね!
テリーのゴールデンブザーを振り返る
テリーはこれまで8回のGB(ゴールデン・ブザー)を押しているとのことですが、彼らしさがにじみ出ていると言えば、2022年(season17)の1次予選第1週に登場した、21歳のサックス奏者エイブリー・ディクソンの回ではないでしょうか。
ステージに立つエイブリーにサイモンがインタビューを行うと、彼が容姿や声のせいで小学校のときに辛い目に遭ったこと、サックスと出会って人生が少しずつ変わり始めたことなどが明らかになっていきます。
エイブリーの母親とともにステージの袖でこのインタビューを聞くテリーは眉を落として目を細め、神妙な面持ちです。
サイモンが「好きなだけ騒いでいいよ!」と演奏開始にGOサインを出しますが、エイブリーの緊張が明らかな様子に、テリーは心配を通り越して警戒しているかのように見えます。
エイブリーが「水をもらっていいですか?」と尋ねると、ここでテリーは間髪を入れず水の入った小さなボトルを持って現れ、エイブリーに手渡すと彼の肩をポンポンと3度軽く叩きました。
観衆が見守る中、水を一気飲みしたエイブリーから空のボトルを受け取ると、テリーは一言も発さずにすみやかにステージの袖へと戻ります。
裏方に徹する彼の態度は、非常にスマートなものでした。
エイブリーの奏でるテナーサックスは、小学校で味わっていた抑圧感とは正反対に、軽快で明るくリラックスした音色が心地よく、演奏の後半には立ち上がって手拍子を打つ観衆で会場全体が沸き立っていました。
ステージの袖では母親の隣で、演奏の成功を自分のことのように喜ぶテリーの姿があります。
演奏終了後、審査員からは次々とエイブリーに最大級の賛辞が贈られますが、4人目のサイモンのコメントが終わろうとする頃には、テリーはすでに何かを我慢できないような表情になっていました。
「これ(成功)は君の運命だ。もしその証明が必要なら、まず私が最初の『Yes』を贈ろう!」とサイモンが投票を始めると、テリーは手を左右に振りながら感極まった表情で「投票は要らない!投票は必要ない!」とジャッジの進行を制止しながらステージを下りてきます。
観衆の声援を背にして審査員席の中央後方に立ち、ステージ上のエイブリーを指さしてテリーは叫びます。
「君は会場にいるすべての人々の心を動かしたんだ!」
「意地悪をしていた子どもたちに、君には『テリー・クルーズ』という兄貴がいると伝えてくれ!」
「そして彼らは君が成功する瞬間を目撃することになるんだ!」
絶叫とともにテリーが叩いたゴールデンブザーに、会場の感動と興奮は最高潮に達していました。
近所から「うるさい!」と警察にまで通報され、小さくなってサックスの練習をしていたエイブリーに、テリーは幼い頃の「何もかもに遠慮して生きていた自分自身」を重ね合わせていたのかもしれません。
エイブリーが辛い過去を「過去のものとして訣別する瞬間」を支えることが、この回のテリーの役目であり、彼こそが適任だったのではないでしょうか。
いかがでしたでしょうか?
AGT司会者のテリー・クルーズは美術と音楽を愛し、喜怒哀楽の表現も豊かで、大きな筋肉の鎧の中には相手の辛さを思いやる繊細な心を持った男のようです。
これからも彼は出場者が各々の実力を発揮して「新たな自分」に出会うチャンスに恵まれるよう、サポートを続けるに違いありません。
今後もテリー・クルーズのいっそうの活躍に期待しましょう!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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